北上工場の新棟稼働…NAND増産、キオクシアはAIブームの恩恵を獲得できるか
キオクシアの北上工場(岩手県北上市)の新棟「第2製造棟」(K2棟)がついに稼働する。2025年秋から最先端NAND型フラッシュメモリーを増産する。当初は23年中の稼働を見込んでいたが、NAND型フラッシュメモリーの価格下落で操業開始を見送っていた。NANDの増産体制を整え、主力のスマートフォンに加え、生成人工知能(AI)の需要を深耕し、海外勢の背中を追いかける。(小林健人) 【写真】キオクシアの北上工場第2製造棟 キオクシアは5日、K2棟の稼働に先立ち、記者会見を開いた。渡辺友治副社長は「北上工場は量産に特化している。K2棟は第1製造棟(K1棟)以上の生産性とコスト競争力を目指す」と述べた。K2棟の建築面積は3万1000平方メートル。最先端の製造装置や搬送システムを導入しながら、K1棟との統合生産を実施し、生産性を高める。 第8世代と呼ばれる最先端NANDを量産する。同NANDは別々に製造したロジックとメモリーをウエハーボンディングによって貼り合わせる「CBA」技術を導入。ロジックとメモリーにそれぞれに最適な製造方法を選択でき、NANDのビット密度を高めた。キオクシアは最先端NANDでAI需要を深耕する。 ただ課題がないわけではない。現在、AIデータセンター(DC)で多く使われるメモリーは、DRAMを複数積層した広帯域メモリー(HBM)だ。データセンターへの投資が増えることはNANDにとってもプラスに働くが、HBMほど好影響を受けるわけではない。 NAND市況の先行きも不透明だ。台湾の調査会社トレンドフォースによると、24年7―9月期のNAND価格は前四半期と比べ5―10%上昇したが、10―12月期は同3―8%減と5四半期ぶりのマイナスを見込む。メモリー各社が生産数を増やした結果、価格が下落すると分析する。業界関係者も「DRAM大手はAI向けとして、DRAMとNANDを同時に提案できる。提案力の差は今後のシェア争いに効いてくる」と指摘する。 一方、「生成AIの普及にはNANDが必要」(飯泉孝日立ハイテク社長)との声もある。キオクシアの渡辺副社長は「AI推論サーバー向けが今後増えると、NANDの需要も増える」と強調する。念願のK2棟の稼働により、キオクシアはAIブームの恩恵を獲得できるか、賽(さい)は投げられた。