続々立ち上がるコーヒーベンチャーに求められているのは「ストーリー」
続々立ち上がるコーヒーベンチャー
このようなコーヒー消費増大の状況下、全米各地でもさまざまなコーヒーベンチャーが立ち上がっている。 急速に拡大している「ご当地コーヒーベンチャーから拡大した」成功例をこの分野での権威とも言える、ニューヨーク・タイムズのジュリー・クレスエル記者が3つ上げているので紹介しよう。 2004年に設立された「Ziggi's Coffee」は、ドライブスルーとカフェ形式の店舗を全米に展開し、便利で高品質なコーヒーを提供することをミッションとしている。フランチャイズ展開にも力を入れており、コーヒー以外にもスムージーやティーなどのメニューも充実している。現在100店舗は、来年には40店舗増設というから、この「急速」ぶりがうかがえる。 「Scooter's Coffee」はネブラスカ州で1998年に設立され、ドライブスルー形式の店舗で急速に成長している。彼らは「アメイジングな体験」を提供することを目指しており、アラビカ豆を100パーセント使用した高品質のコーヒーを提供している。フランチャイズ事業にも積極的で、多彩なメニューを揃えている。6年間で約5倍に拡大し、800店舗に届く見込みだ。 「7 Brew Coffee」もドライブスルー形式のコーヒーブランドで、フレンドリーな接客とユニークなカスタマイズ可能なメニューが人気を集めている。コミュニティをつなげる場としても機能し、店舗数を拡大中である。創業7年で約200店舗という拡大ぶりだ。 これらの「コーヒーベンチャー」には、共通することがいくつかある。 まず、お客をさらにコーヒー好きにさせて、店の常連にするために、コーヒー自体の質の向上はもちろんのこと、コーヒー以外のメニュー(スムージーや紅茶、緑茶)を充実させること、さらにフードメニューを広げることが肝要なようだ。 (おそらくアイテム数が少ないファーストフードなどと比べ食品ロスが多いというハンディはあるだろうが、これは欠かせないようだ)。 そして、「ふらっと立ち寄る」ということは、この国では「ふらっとクルマを寄せる」ということがほとんどなので、いまはドライブスルー店舗への注力が欠かせない。かのスターバックスでも、店舗を建てれば自動的に成功するという時代は終わり、新しく立ち上がる郊外店舗のほとんどはドライブスルーだ。 そしてなにより、お客はコーヒーショップに「ストーリー」を求める。 かつてのスターバックスがそうであったように、若者たちはただの大企業が新部門を開発して参入したというのではなく、シアトルの魚市場のなかの1店舗から始まったスターバックスのように、「鉄道近くの屋台発」などといった創業の風景に魅力を感じる。 そして、その企業は「成功の暁として」社会的貢献に全社的に取り組む企業であり、具体的なボランティア活動を起こしていることが条件となる。 あいかわらずコーヒーベンチャーは雨後の筍のように現れるが、多くは消えていく。消えていくからこそ、生き残っているコーヒーショップに住民は敬意を払い、足繫く通って支援しようという気にもなる。 消費量が増大するアメリカのコーヒー事情は、単に飲み物に対する嗜好の現象ではなく、ストーリーに溢れるアメリカンドリームと似ているところがある。
長野 慶太