『室井慎次』無線パートに隠された秘話とは?狙いとお約束があった
Q:複数の声が交錯していて、小野賢章さん、新井笙子さん、兼政郁人さん、菊池通武さん、中西正樹さん、吉岡琳吾さんの6人の声優さんがクレジットされていますね。そのキャスティングも谷口監督ですか?
谷口:Production I.Gさんの方から、候補声優のリストをいただき、その中で向いていそうな方や際立つ声の組み合わせを考えました。お願いしたのはアニメ的な技に慣れている方ではなく、洋画の吹き替え経験のある方ですね。
Q:特に印象的な最後のセリフに、小野さんを起用した理由とは?
谷口:本広さんから最後の声を特に立てたいと聞いていたので、そこは小野さんにお願いしようと。打ち合わせで名前をあげたのは本広さんでしたよね?
本広:僕は谷口さんだと思ってた。小野さんの奥様の花澤香菜さんは『PSYCHO-PASS サイコパス』のヒロイン役だったので、一緒に仕事しているんですけど。
谷口:そうか、それで間接的にでもお互いに知っているような方がいいのでは、みたいな話でしたかね。
ファンにはおなじみの亀山Pの声も
Q:本広監督からの演出的な要望とは? 谷口:私の最初のプランは、もっと事務的なものでした。世界は個人に優しくないというか。でも、本広監督からは、少し感情的なものもどうだろうかと。それで、得心が言ったところはありましたね。多分これは本広監督や亀山千広プロデューサーなど、ほかのスタッフの方々も含めたこの映画の世界全体が、室井慎次という男がこれだけ努力して頑張って彼なりにあがいて生きてきたことを、肯定してあげたくなったんだろうなと思って、「なるほど、それだったら確かにわかる」みたいに感じたんですよね。
Q:脚本家の君塚良一さんも、今回の映画は「室井の人生を肯定してあげたい」とおっしゃっていました。
谷口:それは多分、本当にシリーズとして長く蓄積してきた付き合いがある方々ならではの思いでしょうね。
本広:冷静に考えると、リアルなら間違いなく事務的な方がいいけど、無線で話している内容自体が悲しいことだし、感情を揺さぶりたかった。でも、あのシーンが泣けるのは、小野さんだからもあると思う。 今回のアフレコは、犬のシンペイの鳴き声の音質や風の具合や音楽など、他の音がまだできてない中だったので、事務的な声から号泣した声まで、いろんなパターンを録らせてもらい、散々悩んで中間寄りの声を使っています。小野さんは本当に上手くて、こちらの要望通りにいろんな表現をしてくれました。