“徒弟制”の外科で指導がパワハラにならないために気を付けるべきこととは
◇あらためて「パワハラとは」
アンケート結果を紹介したのち、あらためて、「パワーハラスメント」とは「労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」で明示されたと解説し、(1)優越的な関係を背景とした言動であって(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより(3)労働者の就業環境が害されるもの――であり、上記3要素を満たすもの、との定義を説明。(1)身体的な攻撃(2)精神的な攻撃(3)人間関係の切り離し(4)過大な要求(5)過少な要求(6)個の侵害――という代表的な言動の類型について何がパワハラに該当し、何がしないかの具体例を明示した。 そして、▽パワハラによる心身への影響にはどのようなものがあるか▽パワハラ行為を受けた後の被害者の行動▽被害者が専門家への相談を拒む背景▽勤務先の対応や勤務先によるハラスメントの認定▽民事裁判にまで発展する場合の流れ▽職場側の関係者にすすめている、事案への対応における留意事項――などについて具体例を交えながら説明した。
◇被害者には「手を差し伸べる」ことが最重要
最後に、「指導における具体的な留意事項と被害を受けた場合の対処」について解説した。 指導する側には▽親・親族のようなスタンス▽部下が間違っていると決めつけない。罰しない▽「言わなくても分かる」とは考えない――という3つのマインドセットが必要であり、指導の際には▽違いを受容する▽過った反応はハラスメントになりやすいことに注意する▽コミュニケーションを工夫し適切な対応をする――という3つのアクションが求められる。医学教育の中では対患者・家族だけでなく今後は医局内での上下関係に特化したコミュニケーションの教育も重要になると述べた。 現在、指導を受ける立場の卒後10年未満の医師の多くは1996年以降生まれの「Z世代」である。この世代はデジタルネイティブと呼ばれ、他者に勝つことよりも自己実現や社会貢献に対する欲求が強い、と定義されている。そしてこの世代は▽“就社意識”が前世代よりも薄い▽転職ビジネスが盛んな時代に就職を迎えている▽外面的な価値観より内面的な気持ちを大切にする▽SNSなどの情報により実態に即した情報に触れやすい――こういった要素が背景となり、離職率が高まっていると説明した。 若手とのコミュニケーションには「傾聴」が重要だと指摘し、相手の話を否定せずに向き合い、感情を感じ取り、言いたいことを言えているかをきちんと確認することに留意しながら、相手に関心を持って話を聴いているという姿勢を示し、最後まで話を聴き、声色や表情も重要なメッセージと意識する――など傾聴実践のコツを伝授した。 ハラスメント被害を受けた人は、メンタルヘルス不調に陥り、身体にも影響が及び最終的に退職する可能性が高い。「人材の確保はこれからどの医療機関でも問題になってくると予想されるため注意が必要だ」と亀田氏は警告した。 被害を受けた場合のセルフケアとして(1)ストレス要因となっている加害者から離れる(2)ストレスを和らげる適切な対処を行う(3)家族・友人など支援者を確保し相談する(4)心身の不調を感じたら自身で対処するだけでなく、専門家に相談する(5)専門家の診断・指導に従い、必要な場合は療養してダメージから立ち直る――といったステップを推奨していた。 また、身近にハラスメント被害者がいる場合は▽手を差し伸べる▽安全と安心を確保▽情報収集を支援▽現実的な問題解決の支援▽周囲の人々とのかかわりを援助▽対処に役立つ情報提供▽専門家への紹介・情報提供――などが心理的応急処置のポイントと説明した。中でも「味方だと伝え手を差し伸べる」ことがもっとも重要と強調された。 講演の後には、本学術総会大会長含め、指導者側の医師から多くの反響、質問があり、関心度の高さがうかがわれた。
メディカルノート