「田園回帰1%戦略」とは? 定住推進へ大阪で講演会
地域外流出の所得の1%を取り戻して雇用を確保
この田園回帰1%戦略は、島根県の中山間地域だけに適用されるものではない。藤山教授によると、島根県と同様の定住推進施策を全国40の道県が実施したとしても、必要な定住者は全国で10万人強に留まる。 一方、東京圏への入超は毎年10万人ベースに達し、人口集中が続く。東京圏へ向かう人たちを狭い都市圏に押し込めず、地方にまんべんなく定住するよう促せば、全国的にバランスの取れた定住環境が整う計算になる。 新たな定住者の迎え入れには、雇用の継続的確保が欠かせない。藤山理論によると、1%定住は、地域外に流出している所得を1%ずつ取り戻すことで可能になるという。 これまで過疎地域では顧客となる住民が少ないため事業経営が難しく、雇用が成り立ちにくいと考えられてきた。結果的に外部企業が提供する商品やサービスに依存せざるを得なくなり、地域住民の所得が地域外に流出してしまう。 そこで、藤山教授が提唱するのは共同事業組織を創設しての合わせ技方式だ。農業だけで1年目からまとまった収入を稼ぐことは至難の業だが、農業、建設、福祉、交通などの各分野の需要を横断的に一括管理し、農業で0.5人分、福祉で0.3人分という具合に、小さな仕事を組み合わせることで、ひとり分の雇用を生み出していく。
各地で「ヤマタノオロチ」を育てよう
藤山教授は地元の出雲神話にちなんで、小さくても多くの可能性を併せ持つ「ヤマタノオロチ」を地域で育てようと呼びかけている。たとえば、車で新聞配達をする場合、業務を新聞配達のみに限定しない。同じ車を使って、新聞を届けるとともに、農家を回って朝採れの野菜を受け取り、地元のスーパーやコミュニティスペースなどへ配達する。 このヤマタノオロチ方式により、新聞配達、野菜の生産出荷、地元野菜の販売、さらには地元野菜を使ったレストランの運営など、複数のビジネスが成り立って雇用が確保できる。住民が求めるサービスを提供して地域の魅力向上や観光振興にも貢献が可能となる。 島根県のある地域スーパーでは、地産地消率は8.4%だったが、毎年1%ずつ高めて6年間で14.9%まで上昇。店頭付近に地元野菜コーナーを設置したところ、新鮮野菜のおいしさから大きな反響を呼び、地元産品の仕入れ額は大幅に増大した。 地域スーパーが大手スーパーに対抗して生き残る強味となったほか、住民に喜んでもらえることが農家の励みになり、生産野菜の種類が増えるなどの好循環が続いているという。