宇宙の解明はどこまで進んでいるのか...現代物理学が到達した「革命的な仮説」
この宇宙は無数にある宇宙の一つに過ぎない
ホーキング放射とは、ケンブリッジ大学の故スティーヴン・ホーキング博士により発見された効果のことです。量子力学を考えるとブラックホールも極めてゆっくりではありますが熱的放射をしており、これが続くと最後にはブラックホールは蒸発してなくなってしまいます。 このブラックホールの蒸発には、およそ10¹⁰⁰億年程度もかかります。そしてその後には、宇宙はただ加速膨張を続けるだけの「からっぽ」の空間になってしまいます。より正確には、もしこの空間に観測者がいたとすると、空間は加速膨張に伴う量子力学的効果である絶対温度10⁻³⁰度程度の放射で満たされているように見えることになります(この意味で加速膨張をしているからっぽの空間は、私たちがイメージするからっぽとは少し違います)。 もし私たちの宇宙が唯一無二の存在であれば、宇宙はこのからっぽの状態に永久にとどまることになるでしょう。しかし、マルチバース理論によれば、私たちの宇宙はどこかの時点で別の宇宙に崩壊してしまいます。つまり、他の泡宇宙が生まれ、私たちの宇宙はそれにのみ込まれてしまうのです。 この崩壊が今まで述べてきた過程のどの時点で起こるのかは、現在の理論では計算できません。そして、それがどんな宇宙なのかも現在の理論ではわかりません。しかも、もしこれを計算できる完全な理論が完成したとしても、「次の」宇宙がどんなものになるのかは、量子力学的な確率の意味でしかわからないのです。 マルチバース理論は、私たちが全宇宙と思っていたものが、無数の泡宇宙の中のたった一つにすぎないと教えてくれます。これは、たとえば私が(あなたも)祖先から子孫へと延々と続く流れの中に存在するたった一人の人間にすぎないようなものです。タンパク質のような小さな分子も、太陽のような恒星も、生まれては消えていきます。そして、宇宙もまたそうであるようなのです。 マルチバースは、現代物理学が到達した極めて「革命的」な描像ではありますが、諸行無常に慣れ親しんだ私たち日本人にとっては、もしかしたらより自然なものに感じられるかもしれません。 * * * 初回記事<まさに「弘法も筆の誤り」…「稀代の天才」アインシュタインが悔やんだ「生涯最大の過ち」!>では、宇宙の膨張について詳しく解説しています。
野村 泰紀(バークレー理論物理学センター長・カリフォルニア大学バークレー校教授)