男子マラソン5位、中本の控え目人生
一度は見えたメダル
スタート時の気温は22・4度で湿度も33%と初日の女子より好条件になったが、アフリカ勢がペースを抑えて最初の5キロが15分55秒と遅い入り。 「速い展開になると思っていたから、ロンドンの時のように後半で拾っていくレースを想定していた」と、所属先、安川電機の山頭直樹監督が言うように、中本にとっても予想外の展開だった。 だが中本は「積極的に行って入賞を狙う」という気持ちを持っていた。ロンドンの6位から、もうひとつ殻を破るためには必要なことだと思い、15分10秒前後のペースになった10キロ以降も集団の中で攻めのレースをした。 「国内ですごくいい練習が出来たので自信を持ってスタートラインに立てました」と本人も言うように、この大会へ向けてポイント練習はひとつも外すことなく出来ていた。しかも、山頭監督が「去年のロンドン五輪は6位だったが、4位も見えていたレースだったから悔しさの方が多かった。それで本人の希望もあり、各練習の設定タイムも1キロにつき3秒上げた」という、ワンランク上の練習も出来ていたという理由もあった。 最初から激しい揺さぶり合いが繰り返されるレースだったが、序盤は落ち着いて自分のペースを守った。そして17キロ付近からは積極的に前についた。自分の動きの良さを確認し、メダルを狙おうという意識も強くなったからだ。30・5キロ付近からの、優勝したステファン・キプロティチの強烈なスパートに対応できずに突き放されたが、集団のペースダウンに乗じて35キロでは追いつく気迫もみせた。 「30キロまではメダルも見えたけど、その後で追いついた時には脚にも来ていたし、メダル圏内は無理だなと思いました」という中本は、36キロ過ぎの仕掛けで遅れた。 それでも落ちてきたペーター・ソメ(ケニア)を抜き、2時間04分38秒の記録を持つテセゲイ・ケベデ(エチオピア)を追い上げて5位入賞を果たしたのだ。 そんな健闘をしながらも、中本はガッツポーズの片鱗もみせずにゴールした。それはロンドン五輪で6位になった時と同じ。その理由を「メダルじゃなくて入賞ですから」と苦笑しながら説明する。 山頭監督も「これまで彼の喜怒哀楽の表情を見たことがない」というほどにいつも淡々としている中本。そこまで控えめなのは、彼がここまで注目される競技人生には縁がなかったからだ。