韓国の「最悪な4つの未来」とは? 「自己実現が人生のすべて」になった国の「悲惨な現実」を炙り出す(レビュー)
『韓国消滅』(鈴置高史・著)というぎょっとするタイトルだが、1980年代から韓国を観察してきた辣腕ジャーナリストが、豊富な取材体験と緻密なデータに基づいて書いた力作だ。圧巻なのが、世界最悪の人口減少を扱った第1章だ。韓国の出生率はOECD38カ国の中で唯一「1」を下回り、2023年には0・72まで落ちた。 本書では韓国の未来を、「老人介護の放棄」、「若者の海外脱出」、「急速に膨らむ政府債務」、「兵力が減少するから核武装する」と描き出す。 ここまでは私もある程度、予期できる。私が感嘆したのは、出生率の激減の原因を明解に説明した次の件だ。すなわち韓国社会の「生きづらさ」、具体的には「社会の競争圧力の過度の強さ」と「経済的な困難さ」が原因であり、それは「1997年の通貨危機、いわゆるIMF危機を脱出するための懸命の努力の副産物だ。(略)韓国企業の多くが、危機を契機に従業員の解雇に躊躇しなくなった。毎年、評価の低い従業員を自動的に馘首する企業も珍しくない。/非正規雇用の比率も一気に上昇した。(略)/そんな激しい競争社会を子供の時から意識して育った世代が大人になって結婚・出産に逡巡するのも無理はない」と見抜いた点だ。鈴置氏は出生率の激減が「社会のありかたに由来するだけに、解決は容易ではない」と診断する。
私は、女性の地位が急上昇して大多数が仕事を持って自己実現することに生きがいを感じるようになったため、結婚、出産、育児を負担に思う女性らが韓国の歴史上はじめて多数登場したことが出生率低下の原因ではないかと思っていた。私が韓国に留学した1970年代後半から80年代前半、女性は結婚して男の子を産むことが最大の役割だという儒教的女性観が社会を支配していた。それがいつの間にか、潮の引いたように消える一方、IMF危機後に出現した激しい競争社会の中に子どもの時から男も女も放り込まれた。その結果、自己実現がすべてという生き方が主流になった。儒教が力を失った後、健全な家庭を営むことが良いものだとする道徳もなくなってしまったように見える。何をしても競争に勝てば良い、自分さえ良ければ良い、という社会になってしまった。 本書で鈴置氏は韓国の民主主義、外交、対日姿勢を厳しく批判している。その批判と私が感じている韓国社会における儒教の退潮、それに代わる新しい道徳がまだ出てこないという現象は重なる部分が多いのではないかと思っている。 [レビュアー]西岡力(公益財団法人モラロジー研究所 歴史研究室長・教授) にしおか・つとむ1956年東京都生まれ。筑波大学大学院修士課程修了。在韓日本大使館勤務、『現代コリア』編集長、東京基督教大学教授などを経て現職。『日韓誤解の深淵』(亜紀書房)など著書多数。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
新潮社