ナゼ?「うまくいったら高額報酬を保証」より「ヘマしたら高額報酬から減額」の契約のほうが〈高い成果〉を見込めるワケ【経済評論家が解説】
宝くじを買ったら、なんとなく当たりそうな気がしてくる。飛行機に乗ったら、落ちてしまうのではないかと不安を感じる…。このような感覚は、人間の脳が「錯覚」を起こすことで起こります。実はこの「錯覚」が、ビジネスや投資の結果を左右するともいえるのです。経済評論家の塚崎公義氏がわかりやすく解説します。 年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
「一度手に入れたものは手放したくない」という人間の性質
私たちの眼は錯覚を起こします。「同じパンを、大きな皿にのせたときと小さな皿に載せたときで、それぞれ違う大きさに見える」等はよく知られています。 眼と同様に、脳も錯覚を起こします。「非常に小さな確率」は実際より大きく感じるので、宝くじは当たりそうな気がするし、飛行機は怖くて乗りたくないと感じる人も多いでしょう。 本稿が論じるのは「一度手に入れたものは手放したくない」という話です。 学生にマグカップを見せて「何ドルなら買いたいか?」と問う場合と、マグカップを学生に与えてから「何ドルなら売ってくれるか?」と問う場合では、後者のほうが高い金額を答える学生が多かった、という実験結果があるそうですが、学生にとってのマグカップの価値が入手前と入手後で異なる、ということですね。 通信販売で、「返品自由ですので、とりあえず試着してみて、気に入ったら購入して下さい」という場合がありますが、意外にも返品率は低いといわれています。日本人は「返品するのは失礼だ」と考えて返品を思いとどまる人も多いのでしょうが、そればかりではなさそうです。一度手に入れてしまうと、愛着が湧いて返品するのが惜しくなる、という効果も働いているのでしょう。
業績が好調な企業が「賃上げ」より「ボーナス増額」を選ぶワケ
企業の業績が好調なとき、「賃上げ」ではなく「ボーナス増額」をする場合が多いのは、賃金を上げてしまうと、将来業績が悪化したときに賃下げがむずかしいからだ、といわれています。 高い賃金を得てから失うと、労働者が非常に不愉快になる可能性が高いので、それを避けるために「1回限りのボーナス増額」を選択する、ということのようです。ボーナスであれば、毎回変動することを前提とした一時金という理解をしている労働者が多いため、減ってもそれほど不満がない、ということなのでしょう。 改革がむずかしい一因も「一度手に入れたものの価値を大きく感じる」という人々の錯覚かもしれません。改革により、10損する人と11得する人がいるとすると、組織全体としてはメリットとなるのでしょうが、11得する人の推進運動よりも10損する人の抵抗の方が強くなるため、改革が進まない、ということが起こりそうですから。 もうひとつ、損する人は「だれがどれくらい損するか」を具体的・明確に理解できる一方で、得する人は「自分がどれくらい得するか」を具体的に予想することがむずかしい、ということもあるかもしれません。たとえば、農産物の輸入自由化をする場合、農家は失うものを容易にイメージできますが、消費者は農産物の小売価格がどれくらい低下するのか、イメージするのがむずかしいでしょうから。