選挙人の過半数に届かなければ200年ぶりの「臨時選挙」発動で、驚愕の「ねじれ政権」誕生!?【前嶋和弘の2024アメリカ大統領選、深層ウォッチ】
実はそうした場合、さかのぼること約200年前、1800年の大統領選をきっかけに制定された「合衆国憲法修正第12条」によって、議会下院が大統領を、上院が副大統領を、それぞれ選出するための「臨時選挙」を行なうと定められています。 1800年の大統領選では選挙人投票が史上初めて、トーマス・ジェファーソン(民主共和党)とアーロン・バー(連邦党)で同数となりました。当時の規定では、過半数の選挙人を獲得した候補がいない場合、「下院議員の投票で過半数の州を押えた候補が大統領、次点候補が副大統領に選出される」ということになっていました。 ただ下院内部の政治的思惑で、なかなか決まりません。35回投票を続けましたが、ジェファーソンとバーはいずれも過半数を獲得することができませんでした。36回目の投票の際、ふたりと対立する連邦党のアレクサンダー・ハミルトンとジェファーソンが結託することで、ジェファーソンが過半数票を獲得し、大統領に選ばれました。ジェファーソンと副大統領となったバーとの関係が最悪となったのはいうまでもありません。 それだけではありません。裏切ったハミルトンをどうしても許せないバーは、何とニュージャージー州で決闘を申し込みました。その結果、バーはハミルトンを銃殺します。そして他州に逃げ込み、バーはそのまま副大統領を続けました。今から考えるとありえない話で、刑法が不十分な当時でも大きなスキャンダルでした。ハミルトンはアメリカの初代財務長官を務め、憲法制定に多大な貢献をしたエリート中のエリートでした。 この悲劇以降、臨時選挙で下院が大統領を選出したのは今から200年前に行なわれた1824年の大統領選だけです。 1824年といえば、まだ日本は江戸時代の文政7年で、ペリーの黒船が来航する30年前。当時のアメリカはまだ、西部開拓時代の真っただ中で、現在の共和党が生まれたのは南北戦争(1861~65年)の直前ですから、はるか以前の出来事ということになります。しかし、仮に今回の選挙でどちらの候補も過半数を取れない場合、実に200年ぶりとなる臨時選挙が適用される可能性があるのです。 では、この臨時選挙は具体的にどのような形で行われるのでしょうか? 先ほど「議会下院が大統領を、上院が副大統領をそれぞれ選出する」と述べましたが、まず、ここでいう「下院」「上院」とは、いずれも11月5日の大統領選と同時に行われる議会選挙を経た来年1月からのアメリカ議会上下両院のことを指します。 その上で、まず下院による大統領の選出方法ですが、新たに選出された議会は1月6日に合同会議を開き、選挙人票を数えて、どの候補者も過半数の270票に達していないと判断した場合、下院は直ちに臨時選挙を行なうことになっています。