生成AIは「鉄腕アトム」になれるのか? 東大・東工大教授が語るAI研究の最先端
┌────────── 生成AIは膨大な情報を持っているので、リンゴに関するありとあらゆることを知っているという状態に近づいてはいますが、リンゴを食べられない、味を感じることができないという点で、やはり人間とは異なります(松原氏) └──────────
そこで近年進められているのが、「身体性」に関する研究だ。今世界中で、AI研究者・ロボット研究者が共同して、生成AIに身体を持たせる実験が行われているという。
┌────────── 生成AIに目と耳を搭載することで、言葉と感覚を対応させていく。ちょうど人間の子どもが身の回りのものを見て学習するのと同じです。空間認識能力の弱さも解決できるでしょう。それこそ、鉄腕アトムに近づくかもしれません(松原氏) └──────────
松原氏は、「AIは人間と同じように言葉の意味を理解しているわけではない」と語る。しかし、ChatGPTのやりとりを見ていると、大体は理解しているように見える。それはなぜだろうか。 ┌────────── 有力な説としては、『生成AIは生成AIなりに言葉の意味をわかっている』というものがあります。宇宙人とコミュニケーションが成立しているようなもので、お互いがどう理解しているかはわからないけれど、少なくとも対話できるという状態。 もっとラディカルなものでは、『人間も意味なんか理解していないんじゃないか』という説もあります。対話には意味の理解が必要だという仮定自体が間違っており、実は人間も深く意味を考えずに対話しているんじゃないか、というものです。 チューリングマシンの頃から言われているテーマではありますが、生成AIの技術が進歩したことで、議論はますます発展しています(松原氏) └──────────
今後生成AIはどうなっていく? 仕事の代替可能性は?
本セッションでは終盤、岡崎氏、松原氏、モデレーターの樋口氏によるパネルディスカッションが行われた。ここでは最後に、いくつかの質問・回答を抜粋して紹介する。 ■ 質問(1) 今後、良質な言語のリソースが伸びていかず、頭打ちになるのでは? 岡崎氏:Common Crawl(コモン・クロール)におけるデータは現在2600億ページほど収集されているが、データ数としても今後限界はくる。対策としては、質を上げていく、タスクを解くためのデータを開発していくという方向で進んでいくだろうと考えられるが、今のスケーリング則でこのまま伸びていくとは言えない。 ■ 質問(2) LLMよりも学習データの少ない人間が、LLMよりも優れているのはなぜ? 松原氏:岡崎氏の説明にもあったように、LLMは次の単語を予測しているにすぎない。その点で、人間は単語予測以外にもできることがたくさんあるから、というのが1つの答えではある。人間の高度な能力や直感というものが、AI的なアルゴリズムに落とせていないので、具体的に説明するのは難しい。 岡崎氏:身体性の面でも、LLMはまだまだこれから。自分で手や足を動かし、知的好奇心をもって情報を取りに行くということができていない。人間は動物として、長い進化の歴史があり、赤子の時点から教えなくても手足を動かすことができる。同じように、知識処理に関する部分も、人間には生まれながら備わっている部分があると考えられる。 ■ 質問(3) 生成AIの産業面での活用について 松原氏:最近は医療や法律など、さまざまな業界でAIが注目を集めている。データが大量にある領域では、今のAIはかなり有効。今までデータを集め、分析して傾向を見出すことを生業としてきた専門家は、影響を受けるだろう。特に、事務的作業は生成AIでの代替可能性が高く、たとえば翻訳の仕事などは近い将来大きく変化する。一方で、トップレベルの職能が必要な仕事や、逆に身体性を伴う肉体的作業については、現時点では代替不可能といえる。