立ち飲み「晩杯屋」はなぜ安い?「人件費は抑えていない」驚きの店舗運営術に迫る
人件費は抑えていない
煮込み150円、ちくわ磯辺揚げ150円、レバフライ190円、レモンサワー290円など、他の店を圧倒する安さを保っているのが大きな魅力だ。なぜ、この安さが実現されているのだろう。そもそも駅前の好立地に多くの店を構えているのに、物件の家賃をどのように抑えているのか。 「物件探しは、一番苦労している部分です。我々が出店したい『15~20坪の駅近路面店』がほしいのはどこも同じで。熾烈な争いが繰り広げられています。とにかく、時間と労力をかけて探し出す正攻法しかないという印象です。この部分に関しては親会社であるトリドールホールディングと連携して対応していますが、一定の費用が発生することは織り込み済で進めております」 では、人件費についてはどのようにコントロールしているのか。 「社員やアルバイトの人件費を無理やり抑えているということはありません。むしろ給料は毎年上がっていますよ。ただ、店舗運営の人数は少ないほうだと思います。その分、取り皿を提供しなかったり、同じお酒のおかわりは同じジョッキで出させてもらったり、料理もお声かけして取りに来ていただいたりと、ある程度サービスの部分を切り捨てているので、少ない人数でも回せる仕組みになっています」 ホームページの問い合わせ欄に「最少人数にて本社を運営しておりますので、アルバイト採用を除き、電話でのお問い合わせはご遠慮ください」との記載が。店だけでなく、本社の人員もコントロールされているようだ。 「本社機能は、『売上・利益を生み出すものではない』ので、店舗以上に人数を減らしており、具体的には社員・PA合わせて10名未満です。なので、本社勤務の従業員には色々なことをマルチタスクで対応してもらっています」
安さの鍵は「仕入れ」にあった
値上げラッシュによる影響は飲食店にとってかなりの痛手であるはず。『晩杯屋』が価格を安くキープできるのは、仕入れの方法にあるという。 「現在の代表を含めたメンバーで毎日豊洲に行っていますが、仕入れ方が他のお店とは違います。豊洲以外の市場は、近くの漁港で水揚げされた魚のうち、その日に売り切れる分だけを仕入れますが、それでも余った魚は全部豊洲に行くようになっているんです。つまり豊洲が調整弁になっているということ。結果的に豊洲では、必ず何かが余っていて、何かが足りていない状態です。そこで弊社は仲卸さんと関係を築いて、その日仲卸さんが売りたいお値打ちの魚を優先的に分けていただけるようにしております。その代わりと言う訳ではありませんが、余剰が発生し困っている時も最大限購買するように努力しております。長く取引を続けるためにも、弊社は仲卸さんに取って都合の良い取引先になって、双方が損の無い状況を継続するのが大方針です」 この方法ならば確かに仕入れ値は安くなる。しかしこれでは、お店で提供できるメニューが安定しないのではないだろうか。 「だから、晩杯屋にはグランドメニューがありません。店舗の発注は、魚の種類を指定せず、必要なキロ数だけです。店に届いた発泡スチロールを開けるまで、どんな魚が入っているかわからないんですよ。また、先述の通り仲卸さんからお願いされることも多々ありますので、市場の都合で発注数の倍近い量が納品されることもあります。それを厨房で一からさばいて調理する必要があるので……。現場の調理担当は本当に頑張ってくれていると思います」 まるで福袋のように、「何が入っているかわからない状態」からメニューを作るという発想力。そして、アイデアを実現できる料理人の“腕”こそが晩杯屋における最大の武器なのかもしれない。