愛した男は何者なのか?“双子”の謎が導く心理サスペンス『2重螺旋の恋人』
心理サスペンスだと聞かされていたので、冒頭からラストにつながる伏線を一瞬たりとも見逃がすものか、聞き逃がすものかと食い入るように観てしまった1時間47分だった。映画『2重螺旋(らせん)の恋人』は、世界三大映画祭では常連となっているフランスの鬼才フランソワ・オゾン監督が米国の作家・ジョイス・キャロル・オーツの原作“Lives of the Twins”に惚れ込み4年の構想を経て映像化した作品だ。「似て非なる双子」への背徳の愛を軸に物語は展開していく。
ポールか? ルイか? 似て非なる双子の謎が導く心理サスペンス
原因不明の腹痛に悩まされていたクロエ(マリーヌ・ヴァクト)。身体には異常が見つからないため、クロエは精神分析医のポール(ジェレミー・レニエ)の診察に通い始める。静かに話を聞いてくれるポールにクロエは安心感を抱き、徐々に痛みから解放されていく。二人はやがて恋に落ち、同居を始める。ある日、クロエは街でポールとそっくりな男性を見かける。それはポールの双子の兄で同じく精神分析医のルイなのだが、ポールはなぜか彼の存在を否定する。ポールが隠そうとしている真実を知るためにクロエはルイに近づこうと偽名を使って彼の診察を予約する。 紳士的で優しいが、クロエの性的欲求を満たしてくれないポール。一方、傲慢で暴力的だが、クロエの切望する激しい愛を与えてくれるルイ。ポールを愛する気持ちはあるのだが疑念もある。鋭い言葉でクロエの心も体も丸裸にするルイには嫌悪感を抱く心とは裏腹に、なぜか足は彼の元へと向かってしまう。 クロエ役のヴァクトはオゾン監督の『17歳』(2013)で売春に手を染める名門女子高生を演じた。今作の企画当初(4年前)は、オゾン監督はクロエ役をまだ成熟していないヴァクトにオファーする気はなかったという。しかし年月を重ね作品が熟成されていく間に、ヴァクトも大人の女性になり、母となり、クロエにつながっていったという。映画の冒頭に、何があったのか髪をバザバザと切り落とすシーンが登場する。その後ショートヘアーになったクロエは無機質な少年のような容姿から、様々な感情を増幅させ、内なる“女性”を目覚めさせていく。 また双子・ポールとルイを演じるジェレミー・レニエは、オゾン監督と組むのは『クリミナル・ラヴァーズ』(1999)、『しあわせの雨傘』(2010)に次いで3作目となる。今作では顔は同じだが気質の違う双子を声のトーンを変えずに演じ分けるという妙技を見せつける。鑑賞後には、「ポールとルイ、どちらが好みか?」という議論で盛り上がれそうだが、この奇妙な三角関係には密かな憧れを抱いてしまうのは、私だけだろうか。 ちなみに撮影はポールのパートを先に撮影したという。ポールとルイを分けて撮影することで、それぞれの役に入り込んだ演技ができるであろうとの考えからだ。しかし、ヴァクトはレニエに「ポールは退屈だわ。早くルイにならないかしら」とぼやいていたそう。ヴァクトはどうやら、ルイ派なのかと思いきや、ルイとの撮影になると「ああ、ポールが懐かしいわ!」と後悔していたとも。