クリント・イーストウッド監督「陪審員2番」…人はなぜ間違うのか、浮き彫りにする法廷ミステリーの逸品
クリント・イーストウッド監督による法廷ミステリー「陪審員2番」が12月20日から、「U-NEXT」で独占配信されている。「許されざる者」「ミリオンダラー・ベイビー」など数々の傑作を手がけてきた現在94歳のレジェンドの新作映画にまた出会える幸福をかみしめる一方で、日本では劇場公開という形が取られていないことにどうにも納得がいかず、心の中はマーブル模様。ともあれ見てみると……ほかの多くのイーストウッド映画がそうであるように、本作も、大事なことを、肩に力を入れずしてぐいとつかみ出す。人はなぜ間違ってしまうのか。ある裁判の行方を通して浮き彫りにする逸品である。(編集委員 恩田泰子) 【写真】クリント・イーストウッド監督「硫黄島からの手紙」でも描かれたバロン西
ある裁判で陪審員を務めることになった男をめぐる物語。
その男、ジャスティン・ケンプ(ニコラス・ホルト)は、妻の出産予定日が間近に迫る中、陪審員召喚を受けた。被告は、恋人(フランチェスカ・イーストウッド)の死をめぐり殺人罪に問われた男(ガブリエル・バッソ)。ジャスティンにとっては、まったくのひとごとのはずだったが、裁判が始まってほどなく、彼の顔に影が差す。もしかしたら自分のせいではないか。彼には思いあたることがあった。
冒頭、タイトルと前後して映し出されるのは、法の女神テミスの絵。いかにも法廷ミステリーらしい、教科書的なイメージに一瞬ひるむが、大丈夫。イーストウッドは、映画をどんどん進めて、観客を引き込んでいく。
まず感嘆させられるのは、フラッシュバックの見事な使い方。ふいによぎるジャスティンの記憶の断片から、被告の恋人が死んだ雨の夜、何があったかがちらちらと垣間見える。彼自身の人となり、抱えている過去も少しずつわかってくる。ただ、何もかもがちょっと霧の中。本当はどうだったのか。主人公の記憶を一緒に反すうしているうちに、わがことのようにどきどきさせられていく。刻々と状況が移ろっていく中、自分だったらどうするか、考えずにはいられなくなる。目が離せなくなる。