ホンダ・エアラ(1977)「ナナハンにトルコン」ホンダ初のオートマ大型バイクはどんな走りだったのか?
一般道~高速を快走するエアラだが……ワインディングでは忍耐の登り、恐怖(?)の下り
CB750Aの国内版、エアラのデビューは1977年。同時にK7と呼ばれるCB750Four、コムスターホイールを履き1本マフラーのマイナーチェンジ版CB750Four IIが登場している。言わば1969年から続くCB750の最後の一花といったモデルたちである。エアラは、アメリカ人向けの素っ気ない出で立ち=アマガエルメタリック色のCB750Aの意匠ではさすがにまずいと判断したのか、メッキを多用してシックな色合いと高級感あふれる各部の仕上げの“大人のための”ビッグバイクというスパイスをたっぷりふりかけられてのデビューだった。 面白いのは、カタログに「モーターサイクルから遠ざかっていた人たちに、カムバックを呼びかける資格がある……」と謳っていること。まだ「リターンライダー」なる言葉などなかった時代に、である。ホンダの先見の明に拍手、である。ちなみに車名のエアラ(EARA)とは、時代(ERA)にオートマチックのAを組み合わせたもので、「オートマチック時代」を意味する造語である。 先にも記したように、ホンダマチックのキモはトルク伝達比を向上させたトルクコンバーターである。したがって2段変速とはいっても事実上低速段であるローレンジは、発進や強力な加速が必要な場合に使う補助ギヤ的役割を担っており、大半のシチュエーションではスター(★)レンジを使う設定となっている。そのためにあえて1、2などの数字ではなく、イメージを限定されない★レンジとネーミングしたのだろう。エアラに限らずホンダマチック車の謳い文句は「スターレンジによる無段変速」だったが、無段変速とはよく言ったものだ。実はまったく変速していないのだから……。 冒頭のようにエアラの発進は極めてスムーズである。そして車速が30km/hくらいになったところで(あっという間だが)スターレンジにアップシフトする。その後はメーターによる最高速160km/hまで息の長~い加速が続く。撮影現場に向かう途中の高速道路では、正直「こりゃあいいや♪」と思った。ノーマルよりアップ目のハンドル、シッティングポイントが少し落とし込まれたシートなどと相まって、ゆったり景色を見ながら走るのには文句のないキャラを持っている。 アクセル操作に対するレスポンスは少々緩慢ながら、流れに乗った速度域であればたっぷりとあるトルクのおかげで、追い越しも不満なくこなせる。ついでに、撮影中などUターンやゴーストップを繰り返すようなシーンでは抜群に楽である。「これなら初めてナナハンに乗る人でもOKかも……」と思ったほど。 問題は日本の道路の過半数を占める(?)山坂道である。はっきり言って、登らない。そして下りは……慣れを要するのだ。 具体的に言えば、まず登りでスターレンジに頼った設計が馬脚を現す。ベースエンジンの67psを47psにデチューンして低速型にしたとはいえ、ギヤひとつでコーナーの続く登り勾配を走り切るには少々無理がある。ローレンジは? と思うだろうが、100km/hまで(引っ張れば110km/hはいけるが)をカバーするこのギヤではふん詰まり感は否めない。大衆四輪車ならいざ知らず、750ccのバイクに期待するスピード域で走らせるには、相当な努力かあきらめが必要になる。 逆に下りでは、コーナー手前でアクセルを戻してもろくにエンブレがかかってくれないため、はるか手前からブレーキをかけるといった乗り方が要求される。ローレンジは? 登りと同じで、ふん詰まってしまい使う気になれない。つまり登りはアクセルと、下りはブレーキと格闘しているようなもので、どうもあまり楽しくない。 ローとスターレンジの間にもう1段ギヤがあったら……と考えてはみたものの、当時の技術、コスト感覚ではどう考えても不可能だっただろう。そもそも考えてみれば二輪車の操作系は、クルマの操作系と比べて、じつによく出来ている。手足を一切離すことなく、しかも人間の直感に合うように造られている。通常の操作で煩わしく思う人って、ほとんどいないんじゃないだろうか? 確かに重いクラッチから解放されるというメリットはあるので、市街地などでは便利だろう。だがエアラに関しては、日本で乗ることを考えたら、失うものが多すぎたと思う。エアラはあまりにもアメリカ向けに造られたバイクだったのだ。 でも、今日の技術でギヤを多段化し、シフトスケジュールを電子制御でコントロールして······もちろんアメリカ向けのお手軽バイクとしてではなく、ヨーロッパや日本での使用状況を考慮して……などと考えると可能性は無限大だろう。“オートマ”というより“クラッチレス”バイクという意味で。その可能性を50年近くも前に見せてくれたエアラは、やっぱり偉大なる先駆者(車?)なのである。