18億の被害、“投機対象”としての高級ブランド時計に憂い…バイヤーに聞く“資産価値”とのバランスをどう見るか?
■高級時計を正規では購入しづらい時代…それもブランド価値を維持する企業努力ゆえ
先述の高級時計=投機対象の流れは、本当の時計好きの人々に好みの時計が行き渡らないという悪循環も生んだ。正規店では、一見さんでは購入できない狭き門に。特に世界三大時計の一つ「パテックフィリップ」は購入履歴がある既存顧客に向けてのみ販売を継続するなどの施策を行い、愛用者のためブランドとしての立ち位置を崩さない姿勢を貫いている。 これは「ロレックス」というおそらく世界一知名度の高いブランドのある意味、悲劇を繰り返さないことでもあった。「ロレックス」は購入後に値段が上がりやすい。また高級時計に興味がなくとも名前を知っている人が多いことから、場合によっては転売を目的とした人の手にも渡っている現状がある。そこで各ブランドが転売対策に力を入れているが、「パテックフィリップ」は20年より「正規店での同一モデルの再購入不可」。22年より「購入から2年間は保証書を発行しない(※保証書を店舗が預かる)」売り方へと舵切り。その姿勢を見せるがゆえに「だから欲しい」と思わせる、高級腕時計の最高峰とも言われる状態が保たれている現状がある。 「ただ『ロレックス』もスポーツモデル、プロフェッショナルモデルと呼ばれるものの中で言えば、エクスプローラーシリーズやヨットマスターも平均的な相場帯が変わらず安定しています。ですがサブマリーナーやデイトナ、GMTマスターは市場の流通に応じて相場の上がり下がりがどうしても出てくる。また廃盤の噂が出回るとやはり左右されやすく、その噂を含めて世界中を探し回っている方もおられ、日本に来たついでに即買いといった場合もあります」 その「ロレックス」はメーカーが正規に鑑定を行う「認定中古制度」をスイス、ドイツ、オーストリア、フランス、デンマーク、イギリスの6か国のブッフェラ―で22年からスタートさせた。「認定中古品の相場は日本の中古相場よりも割高です。正規が行っている安心感や保証があるという利点。また認定中古という正規の“箔”が欲しい方もいらっしゃるのでその分、お金を出すのでしょう。日本においては今の顧客が納得する金額なのかどうかという話になりますので、手放すこと、購入することで得られるメリットや恩恵が確立していない限りは普及しづらい。ただいつ始まってもおかしくはないと思います」 また高級時計といえばラグジュアリースポーツ、通称“ラグスポ”が安定して人気がある。「オーデマ・ピゲ」のロイヤルオークが、これまでその分野の存在を知らなかった層まで認知を広げた立役者だが、「即効性があるトレンドではなくなっている」と太田店長。「一つの立ち位置としてラグスポが確立されたことでトレンドは続いていますが、どこどこのメーカーがラグスポを出したという発表はあまりに繰り返されてきている。逆に『パテック』のようなメーカーが本当に新しいものを打ち出したりしない限りは、次の新たなトレンドの確立は難しいでしょう」と現状を語る。