袴田さん58年訴えた「無罪」なるか(下) 「あなたも当事者に」「姉弟の奇跡」。再審判決を前に、3人の思い
半世紀以上前の1966年に静岡県で一家4人が殺害された事件を巡り、死刑が確定した袴田巌さん(88)の裁判をやり直す再審で、静岡地裁が9月26日午後2時から判決を言い渡す。 【写真】「突っ伏していたら、わたしの手を持って指印を押して…」意識がもうろうとした中、「自白」の供述調書が作成された。「殺しても病気で死んだと報告すればそれまでだ、といっておどし罵声をあびせ殴った。午前2時頃まで交替で蹴ったり殴った。それが取り調べであった」
実際に冤罪被害に遭った人や、袴田さんと同じように無罪を訴える人―。再審をさまざまな立場から見つめた3人に、判決を前に思いを聞いた。(共同通信=平川裕己、柳沢希望) ▽侮辱され自白を迫られた。「あなたも当事者になり得る」―コンビニ窃盗事件の冤罪被害者土井佑輔さん(33) 2012年、身に覚えのないコンビニ強盗容疑で逮捕され、その後窃盗罪で起訴された。逮捕されたのはミュージシャンとしてメジャーデビューを2カ月後に控えていた時。若い頃やんちゃをして警察のお世話になったこともあったが、事件の日は友人と実家のテレビでサッカーを見ていた。アリバイがあり「すぐ帰れる」と考えた。 弁護士の助言で黙秘した。黙るだけなら余裕だと思ったが、捜査員は机をたたき「警察なめんな。とことん苦しめたる」と怒鳴った。「変なやつしかいない」「質の低い女」と家族や交際相手を侮辱した。「友人も親もおまえがやったと言ってる」とうそをつき自白を迫った。
覚えていないだけで、やったのかも、認めれば楽になると思った。自殺願望も湧いたが、母親が袴田さんを紹介した本を差し入れてくれた。逮捕後何十年と闘い続ける袴田さんの存在を知り、思いとどまった。302日間の勾留で人生は大きく変わった。元プロボクサーの袴田さんは人一倍メンタルが強いはずだが、いったんは自白した。捜査機関は精神、肉体とも徹底的に破壊しにくる。 デビューが決まっていたグループは解散。仲間の夢も壊れた。自分は逮捕から2年後、アリバイが証明され一審で無罪となったが、ずっと獄中にいた袴田さんの絶望は計り知れない。再審無罪になれば終わりではない。 捜査に外の目が入らないから人をごみ以下のように扱う。決めつけ捜査や密室の取り調べが冤罪を生む。まずこれらをなくすことが重要だ。自分の場合、真犯人が見つかったが、時効で立件されなかった。捜査が間違っていたら、新たに捜査を尽くす必要もある。 無罪確定後、歌や講演を通じて冤罪の問題を訴えている。世間は袴田さんの話を昔のことと思うかもしれない。でも、普段使うコンビニで何の前触れもなく逮捕され、当事者になり得る。身近な問題だと知ってほしい。 ▽「外に出たらまたボクシングをやる」。拘置所で共に過ごした6年間―狭山事件で無期懲役が確定した石川一雄さん(85)