衆議院補欠選挙でも問われる「1票の格差」 裏金事件の「政治とカネ」問題だけじゃない、もう一つの注目点
■ 「違憲」「合憲」の境界は? 先述したように1972年の衆院選は1票の格差が4.99倍に達し、戦後最悪となった選挙です。これを違憲とする訴えに対し、最高裁は1976年に初めて「憲法違反」とする判決を下しました。 一方、行政の決定を取り消すと公共の利益に著しい損害を与えるため、違法・違憲であっても取り消しはしないという「事情判決」の法理を用い、選挙の無効は認めませんでした。 それでも、この判決をきっかけとして裁判所は次第に「違憲」「違憲状態」という判決を下すようになります。これまでの判決を見ると、最高裁は「1票の価値に著しい不平等が生じている場合」「不平等状態が長期間続いているにもかかわらず、国会が是正措置を怠っている場合」という2点を判断基準にしているようです。 両方を満たしていれば「違憲」、前者のみであれば、「違憲状態」。双方とも満たしていなければ「合憲」というわけです。
■ 是正し過ぎると「地方切り捨て」の懸念も 数字的な基準は明示されていませんが、格差が2.30倍だった2009年の衆院選は最高裁で「違憲状態」と判断されました。他方、2.08倍だった2021年の衆院選は「合憲」でした。2.08と2.30の間に合憲・違憲の境があるのでしょうか。 そうではありません。2009年の衆院選ではそれまでの10年間にわたって国会が定数是正をしなかったことを最高裁が問題にして違憲状態と判断し、2021年は国会が大幅な定数是正に動こうとしていたから合憲となったのです。 それでも、大都市圏の有権者には割り切れない思いが残るでしょう。国会が10増10減に向けて動いていたとしても、司法の頂点に立つ最高裁は「都市部の有権者の1票には0.5票の価値しかありませんが、仕方ありません」と宣告したに等しいからです。 しかし、格差の是正を優先し過ぎると、地方の声が国政に反映されにくくなり、「地方切り捨て」がさらに進むかもしれません。政治の恩恵が都市部に集中するようなバランスを欠く日本が本当に望ましいのでしょうか。 1票の格差を考えることは、実は日本のグランドデザインをどうするかというテーマにもつながっているのです。 フロントラインプレス 「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo! ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。
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