競技会場の歴史や建築を知れば、パリ2024オリンピックがさらに面白い!
ヴェルサイユ宮殿やグラン・パレといった歴史的建造物から、著名な現代建築家の建てたスタジアムまで。建物の歴史や特徴を知って、パリ2024オリンピックをより一層楽しもう。 【写真を見る】セーヌ川の開会式に始まりパリの各名所で開かれる、パリ2024オリンピック
7月26日(現地時間)から開幕されるパリ 2024 オリンピック 。今大会では、セーヌ川での開会式にはじまり、エッフェル塔元のシャン・ド・マルス、コンコルド広場、著名な建築家による現代建築など、新旧のパリの名所や名建築を競技会場として開放している。地球環境に配慮しサステナブルな大会運営と「Games Wide Open(広く開かれた大会)」、「スポーツと文化の融合」を目指す。建築の都、パリの魅力を堪能できるエキサイティングな9つのオリンピック会場を、日本人注目選手とともにピックアップした。 ■1 ヴェルサイユ宮殿/種目:近代五種、馬術 バロック建築の最高峰と名高い、ヴェルサイユ宮殿。ルイ14世の号令のもと、17世紀を代表する建築家のル・ヴォーとマンサール、画家・装飾家のル・ブランによる設計と内装によって約50年間もの歳月をかけて完成した。フランス王室の黄金期を象徴する絢爛豪華な建築だ。 鏡の間や王室礼拝堂、ヘラクレスの間、王妃の寝室など、優雅な宮廷文化を今に残す宮殿内で開催されるのが、"キング・オブ・スポーツ"と形容される近代五種。また、フランス式庭園の最高傑作と称されるヴェルサイユの庭園では、馬場馬術と障害馬術に加え、総合馬術の2つの競技(馬場馬術と障害馬術)が行われる。宮殿と庭園、ともにユネスコの世界遺産に登録されるヴェルサイユ。豊かな歴史を背景に、パリ五輪が掲げる「スポーツと文化の融合」の精神を具現化する。 注目選手 ・馬術:戸本一真、大岩義明、北島隆三 ・近代五種:佐藤大宗、内田美咲 ■2 コンコルド広場/種目:自転車BMXフリースタイル、スケートボード、バスケットボール 3x3、ブレイキン 「スタジアムとはひと味違う、都心環境の中でアーバンスポーツを開催したい」という大会組織委員会の意向により、コンコルド広場が五輪期間中はアーバンパークへと変貌する。フランス革命期には「革命広場」と呼ばれ、ルイ16世やマリー・アントワネットの処刑が行われたこの場所。1795年に"調和"を意味する「コンコルド」広場と名を変え、その中央にはナポレオンがエジプトから凱旋した際に持ち帰った記念碑、オベリスクがそびえ立つ。 総面積8万4000m²、凱旋門やエッフェル塔まで見晴らせるこの開放的な空間で開催されるのが、新競技のブレイキンのほか、東京大会より正式種目となった3×3 バスケットボール、BMXフリースタイル、スケートボードの全4種目。ストリート生まれのこれらの競技は、スピード感やダイナミックなトリック、オーディエンスを沸かすエンタメ性やスリルも魅力だ。勝利を象徴するオベリスクに、現在向かう所敵なしの快進撃を続けるSHIGEKIXをはじめとする、日本勢のド派手な活躍を期待したい。 注目選手 ・ブレイキン:SHIGEKIX(半井重幸)、HIRO10(大能寛飛)、AYUMI(福島あゆみ)、AMI(湯浅亜実) ・スケートボード:堀米雄斗、小野寺吟雲、開心那、四十住さくら、草木ひなの、白井空良 ・BMXフリースタイル:中村輪夢 ■3 ヌーヴォ・スタッド・ド・ボルドー/種目:サッカー ボルドーの森の近くに2015年に完成したヌーヴォ・スタッド・ド・ボルドー。建築設計を手がけたのは、「鳥の巣」と呼ばれる北京のオリンピックスタジアムやミュンヘンのアリアンツ・アリーナ、プラダの青山店を手がけてきたことで知られるスイスの建築家ユニット、ヘルツォーク&ド・ムーロン。スタジアムを囲う無数の円柱は、ギリシャ神殿とボルドーの南西に広がるランド県の松林をイメージしたという。この特徴的なファサードがスタンドの屋根を支える、美しく、かつ合理的な構造だ。 屋根には700㎡もの太陽光発電パネルを備え、雨水の再生システムを利用するなど、持続性と環境責任の基準にしたがって建設されているのも特筆すべきポイント。普段はフランスのサッカーチーム、ジロンダン・ボルドーのホームスタジアムで、フランスの英雄ジダンがこけら落としで始球式を行った。 グループDの日本代表はここで、7月24日のパラグアイ戦と27日のマリ戦の2試合(ともに現地時間)を戦う。パリ2024オリンピックの最終予選を兼ねたU-23アジアカップで優勝を果たしたばかりの彼らは、今大会で悲願のメダル獲得を狙う。 注目選手 ・サッカー:細谷真大、藤田譲瑠チマ、斉藤光毅、小久保玲央ブライアン、高井幸大 ■4 グラン・パレ(ネフ)/種目:テコンドー、フェンシング 1900年のパリ万博で、メインパビリオンとして建設されたグラン・パレ。重厚なボザール様式のファサードも見事ながら、来訪者を魅了するのが「身廊(ネフ)」と呼ばれる高さ43mのガラス屋根のホールだ。アールヌーボーの優雅な曲線を描くドーム型の天井は、エッフェル塔と同じ鉄鋼の骨組みを6,000トン以上も使用している。無骨でいて美しく、開放的なこの空間では、シャネルのランウェイショーをはじめ、数々の展覧会やイベント、アートフェアが開催されてきた。 2021年より大規模改修がスタートし、「ネフ」部分はフェンシングとテコンドーの会場に。フェンシングでは、東京五輪で金メダルを獲得した男子団体のメンバーから3選手が引き続き代表入り。ディオールのパリ2024オリンピック・パラリンピックのアンバサダーに選出された江村美咲は、女子サーブルで世界選手権を2連覇中だ。今大会では男女ともにメダル獲得への期待が高まる。 注目選手 ・フェンシング:加納虹輝、見延和靖、飯村一輝、山田優、江村美咲 ■5 エッフェル塔スタジアム/種目:ビーチバレーボール、ブラインドサッカー エッフェル塔は、フランス革命の100周年を記念した1889年のパリ万博の目玉として建設された。それまでの高層建築といえば、石を積み重ねて高さを築いていくのが当たり前だったが、エッフェル塔は鉄骨の部材を三角形につなぎ合わせた鉄骨トラス造を採用し、当時の高さ記録を大幅に更新した。鉄の魔術師、ギュスターヴ・エッフェルの設計による312.3mの鉄の塔が、その後の世界の高層建築のスタンダードを一変させていくこととなる。 当初こそ鉄を剥き出しにした無骨な造形がパリの景観を損なうと多くの多くの非難にさらされたものの、電波塔としての役割を果たすことで解体の危機を免れると次第にデザインの合理性や稜曲線の美しさに対する評価は高まった。以降、「鉄の貴婦人」として愛され続けているパリのシンボルだ。 地上60メートル地点に五輪マークが設置され、いよいよエッフェル塔も準備万端。マラソンではエッフェル塔のふもとを通過するコースが組まれているほか、タワーの足元から南に大きく広がるシャン・ド・マルス公園が、この夏はビーチバレーボールとパラリンピックのブラインドサッカーの舞台となる。 注目選手 ・ビーチバレーボール:長谷川暁子、石井美樹 ・ブラインドサッカー(パラリンピック):川村怜、平林太一 ■6 パリ市庁舎/種目:マラソン 1357年の完成以来、パリの行政機関が使用するパリ市庁舎。1871年のパリ・コミューン事件で焼失してしまったものの、建築家のテオドール・バリューとエドゥアール・デペルトが、細部にいたるまで建設当時のままを忠実に再現した。横143m、鐘楼を入れると高さは50mになるネオ・ルネサンス様式の建物は、その後フランスを代表する国民的写真家、ロベール・ドアノーが撮り下ろした「パリ市庁舎前のキス」の舞台にも。雑踏の中キスをする恋人たちの写真とともに、アムールの街というパリのイメージを象徴する場所となった。 普段は市民の憩いの場として愛される市庁舎の前に広がる広場が、競技日程の最後を飾る8月10日、11日は、マラソンのスタート地点となる。ランナーたちはその後、オペラ座、ルーブル美術館、ベルサイユ宮殿、エッフェル塔などを通過していき、アンバリッドでフィニッシュ。パリの名所と歴史を駆け抜ける。 注目選手 ・マラソン:大迫傑、小山直城、赤﨑暁、鈴木優花、一山麻緒、前田穂南 7 アンヴァリッド/種目:アーチェリー フランスの英雄、ナポレオンが眠る、アンヴァリッド。1687年にルイ14世によって退役軍人のための軍病院と療養所として建てられ、現在ではフランス軍事博物館と記念像、そしてナポレオンの墓として知られる。敷地内にある高さ107mの金色のドーム「王家の教会」は、統治下時代の将軍が埋葬された軍事霊廟。建築家ヴィスコンティによってデザインされたナポレオンの棺には、ローリエのモチーフとナポレオンが勝利した戦いの名前が刻まれ、栄光を讃える。 このアンヴァリッドとセーヌ川を結ぶように一直線にのびる遊歩道公園、エスプラネード・デ・アンヴァリッドが、アーチェリーの会場だ。高い集中力と繊細なスキルが求められ、わずかな雑念がミスにつながる競技。アンヴァリッドの荘厳な雰囲気が、選手たちの集中力を研ぎ澄ましてくれるはずだ。 注目選手 ・アーチェリー:古川高晴、中西絢哉、斉藤史弥、野田紗月 ■8 グラン・パレ・エフェメール(シャン・ド・マルス・アリーナ)/種目:柔道、レスリング リニューアル工事中のグラン・パレに代わって、2021年以降エルメス主催の馬術大会やシャネルのショーなど、多様なカルチャーイベントを開催する「グラン・パレ・エフェメール(仮設のグラン・パレ)」。建築を手がけたのは、ルーブル美術館の内装やオルセー美術館の改装を手がけたジャン・ミシェル・ヴィルモット。長さ150mと130mのアーチ型天井を持つ2つの身廊をクロスさせたガラス張り建築は、グラン・パレ同様調和の取れた曲線美と美学が特徴だ。柱を一切使わない10,000㎡の館内は、木材を多用し、防音・防熱対策を徹底することで、環境負荷の軽減を目指した。 パリ五輪ではシャン・ド・マルス・アリーナと呼び名を変え、日本選手のメダルラッシュが期待される柔道、レスリングの会場となる。なお、グラン・パレの改修が終了する2024年秋に解体される予定だが、モジュラー式の建築構造を生かし他の場所への移設が見込まれている。 注目選手 ・柔道:阿部一二三、村尾三四郎、斉藤立、阿部詩、角田夏実、 ・レスリング:須崎優衣、藤波朱里、尾﨑野乃香、樋口黎、櫻井つぐみ ■9 パリ・ラ・デファンス・アリーナ/種目:競泳、水球 パリ西部、新凱旋門を中心ランドマークとするラ・デファンス地区。1960年代から副都心として開発が進み、ポストモダン建築の代表として高層ビルが林立するこのエリアに2017年に完成したのが、クリスチャン・ド・ポルザンパルクによるパリ・ラ・デファンス・アリーナ。4万人を収容するヨーロッパ最大となる完全密閉型の屋内競技場だ。大胆なデザインと芸術的アプローチで知られるポルザンパルクらしく、優雅なカーブを描く流体的な外壁にはアルミとガラス製の巨大なうろこ状の600個の装飾がほどこされている。 強豪ラグビーチーム、ラシン92のホームスタジアムとしてだけでなく、テニスコート7面分の広さの表示面積1,400㎡のインタラクティブ巨大スクリーンを備えていることから、アーティストのライブなど多目的に利用されるこのスタジアム。パリ五輪ではモジュール式の多目的構造を生かし、50mプール3つを設置し、競泳、水球競技の舞台となる。なお、すべての資材を再利用するという今大会の方針に則り、大会後は3つの町に移設され常設のプールとして活用される。 注目選手 ・競泳:本多灯、渡辺一平、成田実生、平井瑞希、大橋悠依、池江璃花子 ・水球:稲場悠介、鈴木透生
文・畑ともみ 編集・橋田真木(GQ)