混迷の衆院選「保守」と「リベラル」をキーワードに各党の政策を読み解く
欧州と米国で違う「リベラル」の概念
ところで実は、「リベラル」の概念には曖昧なところがあるので注意が必要である。国際的に見ると、英国などヨーロッパでは、「リベラル」とは文字どおり「自由主義」の立場を指す。歴史的に見れば、絶対的な王権を制限し、議会を拠点に自由を守っていくというのがリベラルの起源である。そのため、ヨーロッパの「リベラル」は、政治権力の制限(政治的自由)や市場原理の尊重(経済的自由)を掲げる。 一方、米国での「リベラル」とは、社会保障の充実やマイノリティの権利擁護などを強調する(恵まれない環境の人たちが真に自由になるためには政府の助けが必要だとの考えからである)。同国の民主党の立場であるが、経済政策的にはヨーロッパでいう「社会民主主義」に近い。 すなわち、ヨーロッパと米国で、「リベラル」の意味が大きく異なるのである。日本で使われる「リベラル」の語は、アメリカ的な意味に近いといえる。(個人的には、「保守」にも伝統的保守と新保守があり、「リベラル」の意味も国・地域によって違うので、「中道右派」(センター・ライト)や「中道左派」(センター・レフト)といった概念を使った方がすっきりすると考えている)
「保守」の中での各党分布
では次に、保守とリベラルの軸の上で各党がどのように位置づけられるのかをみてみよう。ここでの「リベラル」とはもちろん日本的な意味のそれである。 保守に位置づけられるのは、まず言わずと知れた自民党である。自民党は、経済政策では基本的に新自由主義をとっている(かつての自民党は規制や再分配を重視する立場だったが、小泉政権以来、新自由主義の傾向が強くなった)。安倍首相が好む「岩盤規制の打破」ということばにその立場がよく示されている。ただし、今回の公約では教育無償化などリベラル寄りの政策も盛り込まれている。外交・安全保障政策については、同党が集団的自衛権行使を可能とする安全保障法制を主導したのは周知のことであるし、今回の公約でも憲法9条への「自衛隊の明記」を主張している。 日本維新の会も、規制緩和など新自由主義的な改革を主張してきた点や、今回の公約で9条も含めた憲法改正を主張している点で、保守に位置づけてよいだろう。もっとも、かねてから教育無償化を主張していることや、今回の公約で集団的自衛権の行使を日本周辺の米軍防護に限定する旨を盛り込んでいることを考えると、自民党よりもやや保守性が薄いといえる。 日本のこころも保守であるが、新自由主義の色彩は薄く、歴史や伝統を重視する点で伝統的保守の典型といえる。 公明党は、本来は保守とリベラル(昔の言葉で言えば保守と革新)の中間に位置する「中道」政党である。しかし自民党と連立政権を組んでいる現在は、自民党の方針に基本的に同調している。経済政策では再分配を重視しているため、連立政権の中でリベラルに近い主張を唱えることもしばしばある(低年金者への給付金の導入などがその例である)。外交・安全保障政策ではもともと平和主義の立場に立っているため、今回の公約では憲法第9条改正にやや距離を置いている。