「文学性だけを見た」…ノーベル賞審査委員長「最愛」の韓江氏の小説は(1)
「韓江(ハン・ガン)氏の作品では白と赤が出会います。彼女の作品において、白は空から降る雪であり、話者と世の中の間を仕切るカーテンです。白はまた悲しみであり死です。赤は命ですが、苦痛、血、深い切り傷をも意味します。韓氏の文章には艷やかな優しさがあります(seductively soft)が、言葉では言いようのない残酷さと回復不可能な喪失を語っています」 10日午後5時(現地時間)。ノーベル文学賞受賞者である韓氏を紹介するためにスウェーデン・ストックホルムにあるコンサートホールのステージに立ったノーベル文学賞審査委員のエレン・マットソン氏は韓氏の作品で特に際立つ2つの色に言及した。毎年授賞式でノーベル文学賞審査委員に与えられた時間は5分から10分余り。審査委員は登壇して作家の作品世界を文学的な言語で紹介する。 マットソン氏はこの日、韓氏の最新作である『別れを告げない』を集中的に紹介した。「雪は生ける者と死せる者、そして両者の間に浮いている者が会える空間を作る」とし「叙述者は記憶の破片をつなぎ合わせて時間の層を滑降し、死亡者の影と交流して彼らから学ぶ」と小説を説明した。あわせて「韓氏の世界で人々は傷つき、壊れやすく、ある面では弱いが、それでも一歩を踏み出し、また別の質問を投げかける」と強調した。 女性受賞者はイブニングドレス、男性は燕尾服だけを許可しているノーベル委員会の授賞式ドレスコードにより、この日韓氏は黒のロングドレスを着て授賞式場に姿を現した。手には小さな黒のハンドバッグを持っていた。他の受賞者と一緒にステージに座っていた韓氏は5分余り続いたマットソン氏の発表を傾聴し、自身の名前が呼ばれると微笑みを浮かべて舞台中央に進んだ。反対側から歩いてきたカール16世グスタフ国王が韓氏にメダルとノーベル賞証書(diploma)を授けた。 中央日報は授賞式に先立ち、前日、ノーベル文学賞審査委員長のアンダース・オルソン氏(75)と会った。韓氏の作品世界に対する審査委員の評価と受賞者選定過程について詳しく聞くためだ。オルソン氏が韓国メディアとの対面インタビューに応じたのは今回が初めてだ。 オルソン氏はストックホルム・ノーベル図書館で行ったインタビューで「文学での理想は文学性だけ」としながら「どんな理念的考慮もなく、文学性(literary merit)だけで韓氏を受賞者に選んだ」と話した。「理想主義的傾向」がある作家にノーベル文学賞を授与するというアルフレッド・ノーベル(1833~1896)の遺言をもとに、韓氏の作品を評価してほしいという記者の要請に対する答えだ。「ノーベルの遺言は現在のスウェーデン・アカデミーが追求する方式ではない」とし「20世紀始め、ノーベル賞が初めて制定された時の『理想』はカントの哲学的理想主義または保守的道徳主義を意味したが、時間が経過し、ノーベル賞は現代文学にさらに近づいた」とした。 オルソン氏は続いてノーベル賞審査委員会とアカデミーが現代文学を評価する方法を説明した。 「文学的『理想』はたった一つ、文学性です。アカデミーが評価することも文学的成就の水準でしょう。『韓氏は理念的な作家』と主張する抗議性の電子メールを韓国から受け取ったことがあります。これに答えるとするなら、理念はわれわれの考慮の対象ではありません。われわれは倫理や理念、道徳のものさしで文学を評価しません」 韓氏の文学世界に対するオルソン氏の評価は10月10日ノーベル文学賞受賞者発表演説にも現れている。当時オルソン氏は約13分にわたりて韓氏の長編小説を紹介して「残酷にして詩的な美しさを併せ持つ」(『菜食主義者』)、「喪失に関する美しい考察」(『ギリシャ語の時間』)、「韓江証言文学の開始点」(『少年がくる』)という説明を付け加えた。