冨家ノリマサ インタビュー インディーズ映画ながら世界の映画賞を席巻した『最後の乗客』と大ヒット作品となった『侍タイムスリッパー』
『侍タイムスリッパー』『最後の乗客』の2作品が僕を育ててくれた
――『侍タイムスリッパー』の安田淳一監督も『最後の乗客』の堀江貴監督も全て自分たちで行っています。大手配給会社とは違い、インディーズという点から先もハッキリとは見えない、不安定な状態ですよね。それでもその船に乗ろうと思われたのは何故ですか。 船は不安定ですが、船長(監督)はしっかりしているので。船で例えるなら、この船長は船が沈んでも絶対に一番最後まで船に乗っている人だということがわかったんです。まず乗客を救命ボートに乗せ、救命着をつけて、自分は最後という覚悟を持っている。そのことが現場でも会った時にもすぐわかったんです。だから安心です。沈没しても大丈夫、この船長なら助かると思いました。 ――皆さんが船長を信じているということですね。 そうです。その通りです。本当に『侍タイムスリッパー』『最後の乗客』という2作品が僕を育ててくれたと思っています。人間は60歳になろうと70歳になろうと勉強しないといけないことは勉強しないといけないし、人として死ぬまで成長していかないといけないと思っている中で、この2作品は、僕を役者としても人としても成長させてくれました。そんな作品に出会えてもの凄く嬉しいです。 ――2作品の公開が近かったので、まったく違う役を演じている冨家さんを観ることが、出来て面白かったです。『侍タイムスリッパー』ではその立ち姿、喋り方から【時代劇の大物俳優】でしたが『最後の乗客』の【タクシーの運転手】は座っている姿も喋り方もまったく違いました。役に入る時は、どのような研究をされているのですか。 役に入ると自然とそうなっていく感じです。諸先輩方の現場での役作りの仕方を一生懸命見ていたんです。それこそ緒形拳さん、三國連太郎さん、杉良太郎さん、僕の大好きな素晴らしい大俳優の人達と一緒に仕事をさせて頂いた時にとにかく見ていたんです。“現場ではどうやって過ごしているんだろう。どうやっているんだろう”と見ていた時に、“なるほど、こうやって現場に入っていくんだ”とか “こうやって役作りをしていくんだ”と知っていったんだと思います。そして自分自身も先輩方のようにきちんと演技が出来る俳優になりたいと思うようになり、自然と出来るようになりました。 ――役をどのように取り入れるのですか。 諸先輩方が持っているオーラは凄かったんで、見ているだけで焼き付くんです。もう本当にかっこ良かったです。リハーサル室に入って来る20メートル先から、既にかっこいい(笑)。 よく「『侍タイムスリッパー』の【風見恭一郎】役は里見浩太朗さんを意識されているのですか?」と聞かれるんですけど、僕からしたら恐れ多いです。僕が最初に里見さんにお会いした時、「長七郎江戸日記」だったかな?その現場に僕はゲストで出させて頂いたんです。その日、里見さんは既にオープンに出てらして、僕は初日でオープンに出た時にご挨拶をしようと思っていたんです。里見さんはオープンの中で座られていて、僕は50メートルぐらい前から里見さんだとパッとわかり、近づいていったら20メートルぐらいの所で里見さんがフッと僕の方を見られて目が合ったんです。その瞬間、僕は固まってしまって、それ以上1歩も前に行けなくなってしまったんです。本来なら目の前まで行ってご挨拶をしないといけないのにオーラが凄くて20メートルぐらい前から「よろしくお願いいたします」とご挨拶しました(笑)。あの出来事はいまだに覚えています。里見さんからしたら“失礼な若造だな、目の前に来て挨拶しないのか”と思っていたと思います。傍に行けなかったんです。 ――三國連太郎さん、緒形拳さんと癖の強い名優の方々との共演はいかがでしたか。 1つのシーンにかける執念が凄まじかったです。本当に三國さんも緒形さんも“ここまでするのか!”と思うぐらい凄まじかったです。三國さんと絡ませて頂いた時、僕が三國さんを押して、三國さんがゴロッと転がって穴に落ちるというシーンがあったんです。その撮影時、三國さんはスーツを着ていらしたのですが「ちょっとテストしようか」ということになり、「それではやりましょ」ということで僕がポンと押したら、「そんなんじゃ転がれない、ちゃんとやってくれ!」と怒られたんです。僕としては本番前だし、スーツを汚すわけにもいかないと思っていたのですが‥‥。でも、しょうがないのでバンと押したら、三國さんがゴロゴロゴロって転がるわけですよ。スーツも砂とかで汚れているのですが、三國さんは「もう一度やろう」と「まだやるんですか」という感じでそれを3回ぐらいやったんです。それぐらいやって三國さんが「わかった。これでいこう」とおっしゃったんです。今だったら、下手したら「本番前だから、服が汚れるのでやめておきましょう」とか「軽くして下さい」というのが当たり前の中で、それを平気でやる土壌で芝居を積み重ねてきた人の底力を感じました。 緒形さんもそうです。NHKの正月時代劇で緒形さんに最後に斬られるという役で、1対1で戦うシーンがあったんです。緒形さんの姿は震えるほど怖かったです。でも、その人と戦わないといけないと思うと、こちらも“負けちゃいけない”と思うのでグッと気も上げていきます。そうやって諸先輩方と絡ませて頂いたことで、現場に入った時の役としてそこに居る気の上げ方を肌で教えて頂いた感じがします。