【アルテミスS回顧】ゼンノロブロイと同じ牝系のブラウンラチェット スケールを感じさせる血統と大人びたレースぶり
加速ラップに余裕
キズナと母の父エーピーインディ系コングラツはブラウンラチェットとモンブランミノルの2頭だけだが、通算【5-3-1-2】勝率45.5%もある。2戦2勝ブラウンラチェットだけではなく、3歳モンブランミノルも【3-3-1-2】と安定感があり、この秋3勝目をあげ、ダート中距離で連勝中。キズナとエーピーインディ系との相性のよさはマーメイドS勝ち馬シャムロックヒルを出したタピットなどで証明されているが、ニックスとしてキズナ産駒の進化を支える予感がある。 ブラウンラチェットのレースぶりは実に大人びていた。アルテミスSにありがちなスローになり、前半800m47.7と遅く、カムニャックが外の3番手という折り合いの難しいポジションで消耗したように、若駒にはリズムがとりにくい流れでも、一切苦にせず追走。最後は11.5-11.1-11.0と究極の瞬発力勝負になり、進路がなく追い出しを待たされても余裕があった。 これだけ速いラップを楽についていき、進路が開くとさっと抜け出すなんて古馬でもできる馬は少ない。間違いなく超A級に必要な資質を備えている。この勝利で無事なら、阪神JFから桜花賞という理想ローテを描ける。この権利を手にしたことがなにより大きい。
1~3着をキズナ産駒が独占
2着ミストレスは秋の新潟新馬から中1週という難しいローテーションながら、きっちり力を出した。間隔を詰めることは若駒にとってリスクが高いとされるが、この見極めはさすが矢作芳人厩舎といったところ。逃げて馬にストレスを与えずスローペースを演出し、後ろを惑わせるという完璧に近い形だっただけに勝ちたかったが、ここは相手が悪かった。2着で賞金を稼いだので、桜花賞までは比較的余裕をもって進められる。加速ラップを踏ん張ったのは価値がある。 3着ショウナンザナドゥは外から伸びるも、最後は位置取りの差が出たか。さすがに11.5-11.1-11.0を外から一気に差し切るのは難しく、最後は脚色が同じになってしまった。とはいえ、未勝利勝ちとは一転し控える競馬を試み、終いで脚を使えたのは収穫だろう。3着以内はキズナ産駒が独占。この世代もキズナの勢いは衰えることがない。 ライタープロフィール 勝木 淳 競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。
勝木淳