クーデターを阻止したのは「パラサイト」を超える大ヒット映画だった…謎だらけの韓国戒厳軍 撤収兵士に市民が「お疲れ様でした」
士気の低い兵士
今回の“自爆クーデター”を企てた中心人物はキム・ヨンヒョン(金龍顕)国防部長官だ。ユン大統領の出身校であるソウル・恩平区の冲岩(チュンアム)高校の1年先輩にあたり、ユン氏が大統領に就任した2022年5月から24年9月まで大統領警護処長を務めた後、国防部長官に昇進。周囲の助言を受け入れないユン大統領は政府の安保要員を同じ高校出身者で固めており、国軍防諜司令官や特戦司令官も冲岩高校の後輩という。 先輩にあたる超タカ派のキム国防部長官への信頼は厚く口車に乗ってクーデター計画を実行に移してしまったようだ。実はユン大統領側近によるクーデター説は8月にすでに浮上しており、与野党党首会談や国会で野党から追及されていた。クーデターの失敗はその際の情報漏洩が大きく影響したという。 韓国大手紙の政治部記者がこう振り返る。 「クーデター計画の一部が流出したことで、大がかりな軍隊の動員が難しくなり、秘密が保持できる特戦司令部や空輸部隊など少数だけの動員となりました。ただ、作戦方針が共有されず兵士の士気の低さもあって国会占拠に失敗しました。一般市民が大勢集まって戒厳軍に対し抗議の声を上げている動画がリアルタイムで配信されたため、兵士は迂闊に手を出せない。しかも、男性市民のほとんどは軍隊経験者なので鎮圧は簡単ではありません。不謹慎かもしれませんが、クーデターの勃発と終息はまるで映画を見ているかのようなドラマチックな展開でした」 映画といえば、韓国で昨年11月に公開された「ソウルの春」(キム・ソンス監督)が1979年のパク・チョンヒ(朴正煕)大統領の暗殺とその後のクーデターや独裁政権の誕生を克明に描き、1300万人の観客を動員する大ヒットとなった。これはアカデミー賞受賞作「パラサイト」を超える大記録だ。 国民の4人に1人が見たこの映画では、クーデターを起こした権力欲の強い独裁者への激しい怒りが余すところなく描かれている。ユン大統領が引き起こしたクーデターに憤慨した市民が続出したのも、同映画の影響力を考えれば当然だ。 「ユン大統領が弾劾され罷免されれば、保守系政党の大統領はパク・クネ(朴槿恵)氏に続いて、2代連続で弾劾となります。ユン大統領はキム国防部長官の辞任を認め彼に責任を押し付ける構えですが、世論調査では73.6%が弾劾に賛成という結果。与党の代表がユン大統領の離党を要求し、韓国検察庁は国防部長官を辞任したキム元国防部長官を出国禁止措置としました。全閣僚が辞意を表明し、ユン大統領の孤立は極みに達しています」(前出の政治部記者) ユン大統領は悪役のまま愛妻とともに舞台から消え去るのか――。 デイリー新潮編集部
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