”個人情報の塊”スマホを残して死ねますか…?専門家が納得の解説!「デジタル終活」のススメ
スマートフォン、PC、タブレットなどのデジタルデバイスは、現代社会で暮らすのに欠かせません。しかし、便利である反面、ユーザーが突然の死に見舞われれば、その瞬間から“デジタル遺品”の処理が問題となります。 【画像】ど、どうしよう……! スマホのロックを破れないと遺族は大変な目に 想い出の写真や動画、メール……スマホで資産管理を行っている方もいるでしょう。それが、遺族にロック解除などの手段がなければ、たちまち中身のわからない“ブラックボックス”と化すのです。 そんな最悪の事態を避けるために’15年頃から「デジタル終活」がクローズアップされてきました。今後ますます必要とされるデジタル終活。私たちはどうすればいいのか、そもそもどんなものなのか。「日本デジタル終活協会」代表理事で弁護士の伊勢田篤史さんにお話を伺いました。 ◆解錠が1年先になるケースも… ――まず、デジタル終活について教えてください。 「デジタル終活とは“デジタル遺品に対応する終活”になります。法的な定義はありませんが、デジタル遺品とは、一般的には『スマートフォン、PCなどのデジタル機器に保存されたデータやインターネットサービスアカウントなど』を指します。これらデジタル遺品に対して、亡くなった本人以外、誰もログインパスワードを知らなければ、遺族がデジタル遺品にアクセスすることはかなり困難になります。そういう事態を避けるために、デジタル遺品を事前に整理しつつ、デジタル機器のログインパスワードを何らかの形で遺族と共有できるよう準備すること。これがすなわちデジタル終活です」(以下、カギカッコはすべて伊勢田さん) ――ログインパスワードがわからなくても、メーカーや専門業者に依頼することで解決しないのですか。 「メーカーや通信キャリアは端末(スマホ等)の中身に関しては原則、非対応です。データ復旧の専門業者にお願いするしかないのですが、スマホのロック解除を請け負ってくれる企業はかなり少ない。また、ケースバイケースにはなりますが、データ復旧費用として20~30万円という多額の費用がかかる恐れもあります。『(ケースによっては)データ復旧に半年から1年以上かかる』などと言われて断念する人も多いようですね。 また、iPhoneに関しては、ログインパスワードを連続で10回間違えると全データが初期化されるように設定している方もいます。遺族の方が”これ”と思ったパスワードを何回も試みているうちに、データ自体が初期化されてしまうこともあるわけです」 ――故人のスマホの中身が見られないことで、遺族にどんな不利益が生じますか。 「葬儀の段階から問題が生じます。まず参列者への連絡です。故人と親しかった方々の情報(連絡先)はスマホに集約されているケースが多い。でも、スマホの中身が見られなければ、親しい人の連絡先を把握できない。家族葬が増えているので、昔ほどは困らないかもしれませんが、それでも故人の死を知らせたい人はいるはずです。 遺影の写真を選べなくて困るケースもあります。遺族の方からすれば、なるべく素敵な生前の写真を遺影にしてあげたい。ところが、いまや写真はデータで保存する時代。スマホが開けられなければ選びようがない。スマホのアルバムにアクセスできず、やむなく運転免許証の写真を使わざるを得なくなったご遺族もいます」 ――XやFacebookなど、故人のSNSアカウントで遺族が死を告知するケースが増えていますが、スマホやPCにログインできなければ不可能ですね。 「個人のSNSアカウントでの告知については、利用規約違反行為となる可能性がありますのでご注意ください。なお、葬儀等の情報を公開することで空き巣被害等にあう恐れもあります。公開範囲についても注意が必要です。 一方で最も深刻なのは遺産の把握です。今年(2024年)から新NISAが始まり、ネット証券の口座開設が増えましたが、PCやスマホを確認することなく故人のネット口座を把握するためには、故人の入出金明細等を精査する必要があり、非常に面倒です。また、故人が暗号試算を保有している可能性もあります。 故人の財産を把握できないのは非常に大きな問題です。証券や預貯金等の“プラスの遺産”がわからないのも問題ですが、“マイナスの遺産”も不明のままだと、遺族に予期せぬ損害を与える恐れがあります。例えば、故人に借入や連帯保証債務がある場合、遺族が相続放棄しない限り、これらの債務を引き継ぐこととなります。相続発生後、しばらくしてから連帯保証債務の存在が発覚し、遺族が呆然となる……というケースも存在します。 よく問題になるのがサブスクです。音楽や漫画など複数のサブスクに登録している人が少なくありません。それらのサブスクサービスは、ケースバイケースですが、クレジットカードなどの明細を精査してサブスクを特定し、解除しなければ請求が止まらないということがあります」 ――そう考えると、運よく故人のスマホを解錠できた遺族は幸せですね。 「必ずしもいいことばかりではありません。スマホは個人情報の塊ですから、故人が望まない形で開けてしまうと……保存されたデータによっては、遺族に災いをもたらす事例もあります」 ――知りたくなかった“不適切な事実”を知ってしまうわけですか? 「わかりやすい例でいえば、不倫の証拠ですね。遺族にとっては“災い”でしかありません。そこまでいかなくても、誰にだって他人には見せたくないデータが大なり小なりあるかと思います。私は、個人が隠したいと思うデータは大きく2種類に分けられると思っています。 まず、ひとつは【本人にとって恥ずかしいデータ】です。例えば、アダルトコンテンツや身体に関する記録。私の知人の女性は、体重を日々記録していることを『旦那には死んでも見られたくない』とおっしゃっていました。あとは、家族に秘密にしている趣味。オタク的な趣味は知られたくなかったりします。災いが起こることはないけど、自分自身が恥ずかしいので内緒にしておきたいデータ……誰でも心当たりがあるのではないでしょうか。 もうひとつは【家族に災いをもたらしてしまうようなデータ】ですね。不倫相手とのやりとりや、証拠となる写真などです。異常性癖や犯罪に関するデータや、他人の悪口を綴ったメモもそう。親族への悪口を書き連ねた“日記”が死後、見つかったケースもあるそうです。故人の“裏の顔”がわかるデータは遺族を傷つける可能性があります。家族に知られたくない、知られると家族が持つ故人のイメージが変わってしまう。そんなデータを開けられるのは故人も不本意ですし、遺族も苦しみます。 ――では、具体的なデジタル終活の方法を教えてください。 「誰しも尊重されるべきプライバシーがあります。見られたくないデータがある方は、生前からデジタル遺品を仕分けしておくことをお勧めします。本当に見られたくない情報はスマホ等の中に残しておき、ネット口座やサブスクのID・パスワードなど、遺族の方が事後処理に必要な情報はまとめてPCに移しておく。エンディングノートに書き出す形でもよろしいかと思います。そのうえで生前に『PCは見てもいいけど、スマホは絶対に見ないでね』と言い残しておく。 もちろん、PCのログインパスワードや、家族が必要とするデータがどこに保存されているかの情報共有は必要不可欠です。PC内のデータであれば、『まもーれe』というソフトウェアを活用して、見られたくないデータだけ処分するという手法も考えられます。 “とくに見られたくないデータがない”という方は、万が一に備えてPCやスマホのログインパスワードを家族と共有できる仕組みを作りましょう。生前に知られたくないのであれば、パスワードを書いたメモ等を財布や通帳に挟んでおく。一人暮らしの方なら、冷蔵庫の扉に貼っておくという方法も考えられます。いずれも、万が一の際に遺族が確認する可能性が高い場所だからです。生前、何も伝えていなくても見つけてもらいやすいのです。 また、昨今ではデジタル終活サービスも多く誕生しています。『デジタルキーパー』というサービスは、万が一の際、あらかじめ指定しておいたメールアドレスに事前に設定していた情報(ログインパスワード等)を送信してくれます。 さまざまな手法を活用して、万が一の際に家族が必要となる情報にアクセスできるよう手配していただけたらと思います」 大切な人が亡くなれば、ただでさえ遺族は心を痛めながら、事後の手続きに奔走します。そんな彼らにさらなる悲劇を与えないよう、今からデジタル終活に取り組んでおきましょう。 取材・文:佐野裕 さの・ゆたか フリーライター。ビジネス、人文などを主な守備範囲とし、雑誌・ネット等、メディアを問わず、記事の取材・執筆を中心に活躍。著書多数。 取材協力:日本デジタル終活協会 HOME
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