「禁じられた遊び」イエペスのために制作された10弦ギター、大阪で初めて演奏…20年間工房で眠る
「禁じられた遊び」で知られるスペインの伝説的ギタリスト、ナルシソ・イエペス(1927~97年)のために国内で制作された10弦ギターが、来月4日、大阪で初めて演奏される。現在はワシントン条約で輸入が禁止されている希少な木材を使った一点もので、イエペスの死去に伴い、20年間、工房に眠っていた。大阪在住のギタリスト、古川忠義さん(64)が音色をよみがえらせる。(青木さやか) 1980年、日本滞在中のイエペス(右)からギターの指導を受ける古川さん(古川さん提供)
10弦ギターは、イエペス自身が1964年に考案した特殊なクラシックギター。通常のものより弦の数が4本多く、音域の広さと響きの豊かさに特徴がある。一方で、運指に技術を要するためプロでも弾きこなせる人は少なく、量産されていない。
イエペス用の10弦ギターは、名古屋市のギター職人・加納木魂(こだま)さん(85)が、90年代にテレビ関係者から、イエペスに国産ギターを贈る企画をもちかけられ、「一世一代の大仕事」と取り組んだ。同じく職人だった父が保管していた希少な木材「ハカランダ」を使い、数年がかりで完成させた。ハカランダは「ブラジリアンローズウッド」とも呼ばれ、92年にワシントン条約で国際取引が禁止された。ギターのボディーに使うとひときわクリアな音色が出せるという。
しかし97年にイエペスが亡くなり、番組の企画は頓挫。弾き手を失ったギターは、工房に保管されたままになっていた。
2017年、高齢になった加納さんは秘蔵のギターを整理することにし、10弦ギターを名古屋市のギター専門店「ミューズ音楽館」に譲った。店を経営する山下高博社長(74)は、懇意にする古川さんが10弦ギターを弾けることを知り、古川さんに貸し出すことを決めた。
古川さんは、デビューして間もない20歳の頃、来日したイエペスに個人レッスンを受けたことがある。イエペスへの思いを込めた10弦ギターが巡ってきたことに驚き、「素晴らしい匠(たくみ)の技から生まれる音色は、心の琴線に触れる。イエペスが奏でられなかった『幻の響き』を多くの人に聴いてもらい、幸せな気持ちになってもらいたい」と話している。