好きの階段を上る戦略、「ファンは仲間である」と ヤッホーブルーイング が確信した、組織との相関関係
「好き」を積み上げると強固なエンゲージメントが生まれる
DD:具体的にどういったイメージでしょうか。 佐藤:まず好きになってもらう入り口は、世界観を好きになってもらうこと。選ばれるプロダクト(モノ)づくりです。ネーミングやデザインがそれにあたります。我々の商品は「インドの青鬼」「水曜日のネコ」など、ユニークなネーミングやインパクトのあるパッケージで、ご存じの方も多いかもしれません。 製品を知り、飲んでもらったら「機能的な価値」(味や香り)を好きになる次のステップです。飲み続ける理由、共感(コト)の醸成で好きが積み上げられると、醸造所見学ツアーに興味を持っていただく方も増えていきます。機能的価値を好きになった次は「情緒的な価値」です。 「週末のご褒美に飲みたい」など、気持ちの充足感です。このあたりまでくると、ぞっこん度3から2のアッパーミドル層となり、交流イベントなどにも来てくださいます。最終段階は企業への信頼(ヒト)で、ぞっこん度1のファンに。共創イベントなどにもお声かけをする存在となり、企画会議に参加してもらうこともあります。 この順番で好きを積み上げると、極めて高いエンゲージメントでつながり合えることがわかりました。「顧客育成」「顧客創造」が回っている状態です。 社内に目を向けても、全員が同じ目標に向かって、どのぞっこん度の人にどんなコミュニケーションを行うか、明確になっています。製品開発のチームは「ぞっこん度5」の人たちのためにはどんな商品をつくればよいか検討し、ブランドプロモーションチームは機能的価値や情緒的価値を高めるコミュニケーションを行う。 そして次なるぞっこん度アップのためにイベントチームにパスし、作り手をもっと好きになってもらう、といった一体感です。これは、我々の「人格(ブランド)がブレない」という軸にもなっており、ブレないことは顧客体験のなかで非常に重要だと考えています。 DD:この設計は佐藤さんが考えられたのですか? 佐藤:私ひとりというわけではありませんが、ECを担当し、イベントを担当するなかで体感したことを組み立てていきました。 私は前職のIT系で事業の立ち上げなどを行っていたので、当社での最初の配属はEC担当でした。ECチームはお客さまに想いを綴ったメルマガをお送りしており、私も3代目を務めましたが、メルマガなのに返信が来るんです。 「面白かった」「話に共感できる」など。そしてイベントに来てくれて、そのパワーもすごい。何度も来てくれるリピーターもいますし、新しい友人も連れてきてくれる方 もいます。このオーガニックな推奨パワーに驚いて、イベント専門チームを作るに至りました。 実は、入社前は「メーカーなのになぜイベントのような大変なことをしているのか」と不思議でした。ですが、入社したらその価値がわかりました。 DD:イベント専門チームまで立ち上げてしまうとは、イベントへの熱量は相当なものですね。 佐藤:当社では立候補で部署を立ち上げることができます。年に1回、プレゼンの機会があり、プレゼンに通れば誰でもリーダーとして部署を持つことができます。私はECを卒業してイベント専門チームを立ち上げ、いろいろなお客さまと会う機会が増えました。 するとヤッホー愛を語ってくださる方、よなよなエールを愛飲してくださる方などに会えるようになります。そして「定量的に捉えたい」と思うようになり、今度はイベントチームを卒業して顧客調査と顧客体験をつくる今のチームを立ち上げました。ちょうど会社の規模も大きくなり、いろんなことができるようになったタイミングで「顧客理解」をしっかり行おう、と設計しました。