モノを「運ぶ」見えざる人々の手を体感する『物流博物館』。
公立ミュージアムに、私設ミュージアム、記念館に資料館、収蔵品を持つギャラリーなどを巡ってゆくこの企画。様々な文化が掘り起こされる今だけど、歩いて得た情報に勝るものはない。だからこそこの記事を読んだ人もぜひあなたの「東京博物館散策」へ。
電気・ガス・水道と同じく、暮らしと産業に欠かせない営みであり、日本の血脈である物流。いまや日本の労働者の約30人に1人が関連する仕事をしているともいわれている。今年は、「2024年問題」や映画『ラストマイル』の公開も話題となり、賃金問題や労働力不足など、社会の関心も高まりつつある。しかしながら、物流の全貌や詳細はなかなか知ることがない。 東京博物館散策 Vol.2
そんな物流の世界について、歴史から現在を展示・紹介する施設が『物流博物館』だ。1998年に日本初の専門館として日本通運株式会社の協力のもと、高輪にオープンしたここは、物流に関する図書・映像はもちろん、江戸時代の物流の様子を窺い知ることができる模型や資料、荷役道具、明治以降の運送会社の資料や、現代の物流ターミナルを一望できる模型など、物流の様々な姿を幅広く理解することができる。
マスコットのカーゴ君に挨拶をして、地下へ。ここは「現代の物流展示室」だ。まず目に留まるのは陸・海・空の物流ターミナルを模した巨大なジオラマ。左から鉄道の貨物ターミナル、トラックターミナル、港、空港の貨物地区という四つの物流ターミナルを示していて、前方の端末を動かせば実際の映像を併せてみることができるから、擬似的な社会科見学ができるのだ。
「物流の要というのがこの陸・海・空のターミナルになります。色んなところで荷物を積み替えながら、人の手に届くわけです。こちらのジオラマでは4分半で24時間を表現していて、夜でも仕事をしてくれていることがわかりますね。ただ、開館した26年前から現実が変わってきている部分もあって。このジオラマのコンテナ船は20フィートコンテナで、当時3100個積める船として製作しましたが、今や世界最大級のものは20フィートコンテナで2万4000個積めるようになっていたりするんです。物を運ぶニーズの高まりと技術の進化を感じます」
館の学芸員の小緑さんがそう言うように、たしかに、展示されているパネルを見ると、70年代半ばから始まった宅配サービスが80年代頃から一気に需要が高まったことがわかるし、倉庫で実際に使用されているロボットの実物大模型などを見ると、作業員の負担をなるべく軽減できるよう様々な企業が努力していることもわかる。機器を操縦する人々の職人的な凄さや、美術品を梱包する仕事など、生活からはなかなか見えてこない物流の世界も知れた。