こんな家建てなければ…二世帯住宅で娘家族と同居の「年金月28万円・60代夫婦」、理想の暮らしも束の間“全員不幸な結果”に。諸悪の根源は「魔のキッチン」【一級建築士が解説】
予算内4,500万円で建設
二世帯住宅の建設費は当初の予想を大幅に上回り、予算内で建てるためには、完全分離型ではなく、LDKや水回りを共有する部分同居型を選択することになりました。家族みんなで話し合いながらも、主導権はAさんの妻と娘に。デザインや間取りを含め、スムーズに家づくりを進めることができました。 総額4,500万円という大きな投資でしたが、Aさん夫婦の退職金と、娘婿の住宅ローンによって、念願の6LDKの二世帯住宅が完成しました。1階にAさん夫婦のスペースと共用スペースであるLDKと水回りとを配し、2階に娘夫婦のスペースを設け、新たな三世代の生活がスタートすることになります。 なお、65歳以上の人がいる世帯の総数は約2,695万1,000世帯あり、そのうち三世代が同居しているのは約189万8,000世帯、その割合は約7.0%です※。二世帯や三世帯の同居世帯は年々減少傾向にあり、今後も減少が続くと予想されています。
二世帯住宅の光と影
新生活は夢見た二世帯住宅そのものでした。会話が食卓を彩り、休日には庭でバーベキューをしたり花火をしたりと、誰もが羨む三世代の共同生活を家族全員が楽しんでいました。 また、Aさんの娘は毎日子どもの面倒を見てくれる“じいじ”と“ばあば”ができたこともあって、週に4日程度アルバイトを始めることになりました。 なにもかも順風満帆に見えた三世帯の幸せな暮らし。しかし、この生活は長続きしませんでした。 生活リズムの違い Aさんの娘婿は営業をしているため帰りが遅く、夜中12時を過ぎることも珍しくありません。帰宅後にキッチンへ行って夜食を食べようとすると、眠りの浅いAさんの妻が起きて食事を温めてくれるなど、気を遣ってくれることがありました。 しかし、この行動がAさんの娘婿を萎縮させてしまうことになります。優しさの裏側にあるプレッシャーを感じ、娘婿は次第に夜食を遠慮するようになりました。温かい食事は嬉しいけれど、義母の気遣いが自分の自由な時間を奪われているような気がして、複雑な気持ちを抱くようになったのです。 娘婿は、自分の気持ちをうまく言葉にできずにいました。義母の優しさに感謝しつつも、自分の気持ちを正直に伝えることを恐れていたのです。Aさんの妻も、娘婿の心の変化に気づきながらも、どう接すればいいのかわからず、2人のあいだにはいつしか深い溝ができてしまいました。 世代間のギャップ Aさんの娘には、9歳・7歳・4歳の3人の子どもがいます。子どもたちは、テレビやタブレットのコンテンツが大好きで、毎日学校・幼稚園からそれぞれ帰ると動画を見たりゲームをしたりして過ごしていました。しかし、Aさん夫婦は、子どもたちのこうした過ごし方を心配し、たびたび注意していました。 「宿題は終わったの?」「またゲームばかりしている!」そんな言葉が、子どもたちの耳に日常的に響いていました。 Aさん夫婦は、子どもたちにいい影響を与えたいという気持ちから、自分の価値観を押し付けてしまっていたのです。しかし、子どもたちや娘にとっては、動画やゲームはごく自然な遊びの一つでした。Aさん夫婦の考え方は、現代の子どもの遊び方とのあいだに大きな隔たりがあったのです。 あるとき、キッチンにジュースを飲みに行った9歳の息子。背後から“ばあば”に「なにしてるの?」と声を掛けられ、ビクッとしてジュースをこぼしてしまいました。祖父母から話しかけられるだけで委縮するようになってしまったのです。 その結果、子どもたちはだんだんと1階を避け、自分の部屋に閉じこもるようになってしまいました。