激動の中東情勢 複雑に絡み合う対立の構図を整理する
■イラン核開発
1979年のイスラム革命を機に、米国はイランを「テロ支援国家」に指定。そのイランの核開発をめぐり、2012年末には米国の主導で大規模な経済制裁が実施されました。 イランが核開発に向かう背景には、敵対するイスラエルが核兵器を保有しているという噂があります。さらに2003年のイラク戦争で、フセイン政権が米軍の攻撃によって崩壊したことが、イランに「明日は我が身」という危機感を強めたとみられます。 これに対して、その弾道ミサイルの射程に収まるヨーロッパは警戒感を強めています。一方、ロシアはイラン政府の公式見解「原子力の平和利用」を支持。2013年11月、米国とイランに加えて英仏独露中が協議し、核開発と経済制裁の一時停止が合意されました。
■シリア内戦
2011年からのシリア内戦は、各国の緊張や対立を噴出させました。反体制派を「テロリスト」として鎮圧するアサド政権の立場は、冷戦時代からの友好国ロシアや、同じシーア派のイランから支持されています。 一方、シリアの反体制派は「シリア国民連合」に結集。シリアをテロ支援国家に指定する米国など欧米諸国、サウジなどスンニ派アラブ諸国、トルコなどは「ロンドン11」と呼ばれるグループを作り、これを支援しています。 ただし、反体制派のうちスンニ派イスラム組織は、世俗派も多いシリア国民連合と距離を置いていて、これらはサウジなど湾岸諸国から援助されているといわれます。欧米諸国は湾岸諸国から石油を輸入しているだけでなく、反アサドの観点から、事実上これを黙認。一方、イランからはシーア派民兵がシリアに流入しているとみられます。
■「イスラム国」
6月29日、イスラム過激派「イスラム国」(Islamic State、IS)がシリア東部からイラク北西部にかけての一帯を制圧し、イスラム国家の樹立を宣言。シリアとイラクは国家分裂の危機に直面しています。 ISはもともとアル・カイダ系の組織でしたが、その主流派と対立するなかで勢力を拡大。シリアで活動するスンニ派組織には、アサド政権と対立する湾岸諸国から資金が流入していますが、その一部がアル・カイダやISにも渡っているとみられ、結果的にはこれが地域をより不安定化させたのです。 もう一方のイラクでは、イラク戦争後に樹立されたマリキ政権が、米国などの支援のもとで国家再建を進めてきました。しかし、人口で多数派のシーア派が優遇されたことが、スンニ派組織の台頭を促しました。同じくシーア派のイランはマリキ政権を支援していますが、この点では結果的に米国と同じ立場。これは複雑な中東情勢を象徴します。 当事者の関係が複雑に絡み合った中東では、一ヵ所で発生した出来事が、別の場所に思いもよらない影響をもたらし得ます。近年では新たな対立軸も次々と生まれており、中東和平は遠いと言わざるを得ないのです。 (国際政治学者・六辻彰二)