「水害は水が引いた後も大変」 知っておきたい被災者の経験 #災害に備える
大雨の予報が出ると緊張感が高まる「出水期」が近づいてきた。水害から身を守るためには「早めの避難」が鉄則だ。しかし、命が助かっても自宅が浸水被害などにあった場合は、その後に中長期的な避難や生活再建の苦しみが待ち受けていることも少なくない。過去の被災地の経験から、どんな備えや心構えを持っておくべきかを考えた。
捨てなくてもいいものまで「ごみ」に
2000年9月、台風と前線の影響による大雨が東海地方を襲った「東海豪雨」。愛知県西部を流れる新川の堤防決壊などで10人が死亡、家屋6万棟以上が浸水した。 西枇杷島町(現清須市)の戸水純江さんは、決壊現場から1キロほど下流の自宅で被災。深夜に車いすの長女を連れてスーパーの屋上駐車場へ逃げ込んだ。その直後、周りはまるで海のようだった。そのまま飲まず食わず、トイレにもいけないまま半日がたち、ようやく自衛隊のボートで救出された。しかし、すぐに自宅に戻ることはできず、経営していた名古屋市の施設で寝泊まりを続けた。 ようやく水が引いてから少しずつ片付けを始めたが、心に余裕はない。水に浸かってしまった家具や家電をどうするべきなのか、落ち着いて判断することができなかったという。 「今思うと水で洗えば使えるものまで捨てていました。大勢のボランティアさんに来てもらい感謝していましたが、『これは使えないものですね』とパッと判断されると、そうではないと思ってもなかなか言い出しにくい。生活のにおいのする道具がごみとなり、山と積まれている光景を見るのはつらかった」
ボランティアが少なくなった後も、戸水さんは自宅のそうじに悪戦苦闘した。 「家の障子の桟にびっしり泥がついて、拭いても拭いても茶色い水が浮き出てきました。木の目の中まで泥水が染み込んでいるから、乾くとまた泥が噴いてきて、拭くとぞうきんが真っ茶色。乾いたら乾いたで、今度はほこりと粉塵。風が吹くと砂ぼこりがブワーっと立って、マスクをしないとせき込んだり、気持ちが悪くなったりするほどでした」 こうした状態が2カ月ほど続き、家で生活ができるようになったのは11月過ぎだった。「水害は水が引いた後が大変」という教訓を、戸水さんは地元で伝え継いでいる。