「水害は水が引いた後も大変」 知っておきたい被災者の経験 #災害に備える
個別支援が届きにくい在宅避難
名古屋市を拠点とする災害救援の認定NPO法人「レスキューストックヤード」(名古屋市東区)の常務理事、浦野愛さんは、戸水さんのような被災後に生活再建に苦しむ人たちを全国の被災地で目の当たりにしてきた。特に最近はコロナ禍もあり、体育館などの避難所に行かずに自宅で避難を続ける人が多い印象だという。 「水害だと1階は浸水しても2階で住めることもあります。しかし、そうなると在宅避難者となって、行政が個別の支援をなかなか届けられません。食事やトイレなどの不自由が長く続くと、心身の健康がむしばまれてしまいます」 浦野さんはこう指摘した上で、「自宅にとどまるのならば、それなりの準備も必要」と呼び掛ける。
必要物資を家庭に届ける取り組みも
それではどのような準備をしたらよいのだろうか。そのヒントになるのが、佐賀県武雄市、大町町での取り組みだ。 両市町は2019年と2021年に相次いで大規模な浸水被害に見舞われた。病院が孤立し、工場から大量の油が流れ出したりした被害を覚えている人も多いだろう。 2019年の被害の後、この地域では、各家庭で災害時に必要な物資をまとめた「防災あんしんセット」を常備する動きが進んだ。水や食料はもちろん、懐中電灯やラジオ、ポリ袋、マスク、段ボールトイレなど二十数点がプラスチック製の衣装ケースいっぱいに詰まったものだ。在宅避難を余儀なくされた場合でも、ある程度の期間をしのげるための備えだ。 これらの品を個別に購入すると1万円ほどかかってしまうが、現地で被災者支援の活動などを行っている一般社団法人「おもやい」(武雄市)は、全国からの寄付金を活用して「年会費500円」で会員登録した家庭や自治会に提供する事業を行っている。2年目以降は賞味期限や消費期限のあるものを入れ替えながら、備蓄状況を毎年確認するしくみとなっている。
これが2年後の水害時、実際に役立った。 「おもやい」によれば、特に段ボールの簡易トイレが活用できたという声が多かったという。一方で、セットを1階に置いていたため、水に浸かって使えなくなってしまったケースもあった。そのため、たとえ濡れてしまっても使用可能なものに中身を入れ替えたり、部屋の上の方に防災あんしんセットを置くことができる棚を作ったりするなど、協力して改善を進めているという。 「日頃から災害時の動きについて話し合って、いざという時には住民が自分たちでできることは自分たちでやる。そして自分たちだけでは難しいことについては、行政や外部の支援者、あるいは住民同士で助け合えるしくみができるといい」と佐賀の現場にも定期的に通う浦野さんは話す。戸建てだけでなく、共同マンションでの防災活動にも応用できる考え方だろう。