庶民の歴史を記録

魚商を中心に町がつくられたことなどを話す金児さん ＝殿町の松阪第一公民館で

　松阪風土記の会（会長＝金児紘征秋田大学名誉教授、約10人）は19日午後1時半から三重県松阪市殿町の松阪第一公民館で、同会の発足1周年を記念した魚町出身の金児会長（81）による「松阪魚町物語」と題した記念講演会を開いた。参加者らは魚町について理解を深めるとともに地元の歴史をつないでいくことの大切さを感じた。 　同会は、松阪に生まれ育った庶民の歴史を記録したいとの思いで発足。2カ月に1回、魚町の同会事務所で勉強会を行っている。 　金児さんは魚町四丁目出身。県立松阪高校、東北大学工学部を卒業後、同大学院理学研究科博士課程化学専攻修了。秋田大学教授などを務めた。現在は秋田市を拠点に、生まれ育った魚町や、松阪の歴史を調べている。 　この日は一般参加を含めて約25人が参加。金児会長が同会の仲間とともに収集してきた市の資料の中から、同町の歴史について講演した。金児会著は町の地形や名前の由来から、江戸～現在の町の移り代わり、同町一丁目に暮らした国学者・本居宣長や豪商・長谷川家などについて話した。 　町に関しては1588（天正16）年、戦国武将の蒲生氏郷が松坂城を築城したとき、城下町として旧城下の松ケ島から強制的に移住させられた町の一つと紹介。「魚商を中心につくられ、同町の名前の由来となった。紀州藩御用の特権を与えられ、魚以外にも野菜などの食材を扱う店などが集まる松坂町の台所という位置付けだった」などと伝えた。 　さらに「一丁目の入り口には松坂中で最も古く大きな山の神が祭られ、一丁目と二丁目の間には町役場があった。二丁目には魚屋、八百屋が並び、三、四丁目も商業地だったが、1893（明治26）年の松阪大火で二～四丁目まで焼けた」と述べた。続けて「町の象徴であった松阪魚市場が1956（昭和31）年に朝日町へ移転したことで魚商のまちのイメージが消滅。現在は昔の名残が見つけにくくなっている」などと示した。 　その他、本居宣長の日記から、山の神の祭りで出された料理の献立や当時の様子、また同町出身の著名人なども紹介した。 　講演会に参加した魚町一丁目の竹林日出夫さん（91）は「自分たちのまちの誇りを残して、知ってもらいたい。今生きている者は自分たちのまちの歴史を残す責務がある」と話した。