韓国・尹錫悦大統領「夫人の疑惑」謝罪会見のシラケ具合 澤田克己
脱力感に襲われた――。韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による11月7日の記者会見を見ての率直な感想である。さまざまな疑惑によって国民から不信の目を向けられる金建希(キム・ゴンヒ)夫人をかばい、世論を鎮めようと頭は下げたものの、結局は自らの非を認めたくないんだなという印象しか受けなかったからだ。低迷する支持率反転の機会にという当初の思惑は空振りに終わった。 ◇「夫人に頭が上がらない」 日本メディアでも報じられた通り、尹氏は「私の周囲のことで国民に心配をおかけした。おわびする」と語るとともに、深く腰を折って謝罪した。「周囲」とは妻のことだ。どんな内容であれ、尹氏が明確な謝罪の言葉を口にしたのは2年半前に就任してから初めてだった。 ただ、YouTubeで中継を見ていた筆者はその前段で既に白けていた。カメラの前で話し始めた尹氏は時候のあいさつに続けて、まず「大統領はいつも心配ばかりしているポストだ。暑い時は暑くて心配になり、寒くなれば寒さがまた心配だ。景気が悪ければ商売をされる方たちが心配だし、景気が良くなっても物価が上がらないかという心配が先に立つ。365日、24時間、心配して気をもみながら、国民生活をよくすることが、大統領の肩にのしかかる責務だという思いにとらわれる」と話したのだ。 率直に言って、何を話しているのだろうかと思った。そんな話をする時ではないだろうに、ということだ。 夫人を巡る疑惑は多すぎて列挙できないのだが、いま最も関心を持たれているのは政権発足直後にあった国会議員補選の公認候補選びへの口利きだ。知人の政治ブローカーに頼まれた元議員を推し、公認を取らせたとされる。その際、尹氏がなんらかの形で介在した可能性も指摘されている。 1987年の民主化以前に横行した官権選挙への反省から、韓国の公選法は大統領や閣僚らの選挙関与を禁じている。国会議長を経験したベテラン政治家は筆者に「米国では大統領が選挙応援をするのに、韓国は厳格すぎる」とこぼしたが、一般には当然視される。選挙の公認に大統領夫妻が介入したというのは、法的な問題をクリアできたとしても、世論的には完全にアウトとなる。