神様の御計画と信じて…偶然の連鎖が紡ぎだした「キリスト教徒同士」の”運命的な結婚”
ついに講習会当日
ところが講習会の当日、参加者のための食事作りを手伝っていたときのこと。傍らの友人が私の腕をつついて、ささやいた。 「男の人がじっとこちらを見ているよ」 鈍い私は一瞬、何も思い出せなかったのだが、 〈もしかして……〉そう気づいた途端に恥ずかしくなって、まともに顔をあげられなくなってしまった。 講習会には、農業に従事するキリスト者が大勢集う。2泊3日にわたって開催されるので、時間はたっぷりある……はずなのだが、なぜか私たちは知らんぷりを続けてしまった。結局、晋が愛農を去るまで、互いに一言も口をきかずに終わったのである。 しかし、神様は見えないところで着々と「御計画」を進めておられたのかもしれない。これは結婚後に聞いたことだが、私が「自分で伝える」と言ったにもかかわらず、すでに講習会の前に、高橋先生が晋に私の気持ちを伝えてくださっていたそうだ。 そして晋は、愛農の炊事場で働く私の姿を見て「決心」したという。私はといえば、長靴に割烹着、大きなビニールの前掛けというなりで、あたふたと働いていただけなのだが……。 講習会も最終日となる3日目、高橋先生は聖書講義のなかで結婚についてお話しされた。 神様は、信じる者の結婚を、どんな時も、いかなる時も、誠実をもって支えてくださる。人間の誠実が変わることはあっても、神様の誠実は変わらない。それゆえに神様の誠実を信頼して結婚するのである。 そんな趣旨だった。講習会に参加していたのは、愛農高校の卒業生をはじめ若い人が多かったから、内容としては全員に当てはまる講義だ。でも――、 〈これは先生が、若井さんに語りかけているのではないか〉 私は勝手にそう感じていた。私の直感が当たっていたかどうか、今となってはわからない。ただ、晋が先生の言葉を自分のこととして聞いていたのは確からしい。講習会の終わりに提出した感想文。彼はそこに、旧約聖書の詩篇108篇から一節を引いてこう記した。 〈神よ、私の心は定まりました〉 『「冬に炭が買えない」ほどの貧困家庭から東大医学部へ…旅館の息子が6人家族を養うエリート脳外科医になるまで』へ続く
若井 克子