『ネコ全史』矢能千秋さん 翻訳者仲間の力も借りネコの疑問を解消
発売1週間で増刷が決まるヒットとなった『ネコ全史 君たちはなぜそんなに愛されるのか』(日経ナショナル ジオグラフィック)。愛らしいネコたちの姿はもちろん魅力的だが、科学に裏付けられた視点に基づく分かりやすい文章も人気の秘密だ。学術専門誌でもなく、ペット誌でもない『ネコ全史』の翻訳にはどのような工夫があったのか。翻訳者の矢能千秋さんに聞いた。(前回より続く) 【関連画像】「デザインを崩さず、情報を減らさず、英語と同じようにパンチラインが後ろにくるように訳しました」(矢能さん) 『ネコ全史』は、ネコの歴史をたどる一方で、ネコは音の発生場所を数センチの誤差で特定できるなど、動物としてのネコの特異な能力を科学的に解説しています。翻訳で特に注意した点はありますか? ナショナル ジオグラフィックの本ですので、やはり科学に裏付けられた視点が面白いので、調べものには時間をかけました。ですが、見て読んで楽しいものになってほしかったので、あまり硬くなり過ぎず読者のみなさんに話しかけるような文章を心がけました。 矢能千秋(やのう ちあき) 翻訳者。レッドランズ大学社会人類学部卒、英日・日英翻訳者。訳書に共訳 『世界のミツバチ・ハナバチ百科図鑑』(ノア・ウィルソン=リッチ著、河出書房新社) 、『 きみがまだ知らないティラノサウルス 』、『 きみがまだ知らないトリケラトプス 』、『きみがまだ知らないステゴサウルス』(ベン・ギャロッド著、早川書房)ほか。 調べものについては、これまでにやったハチの図鑑や恐竜の本で、百科事典を読むのが一番間違いがないことを学んできましたので、単語は英和辞典で引きますが、そこで終わりにせず背景知識として百科事典も引きます。よく使うのは日本大百科全書と世界大百科事典で、ジャパンナレッジという事典や辞書を収録したインターネットデータベースで、横断的に検索して調べます。 調べもので面白かった箇所や苦戦した箇所はありますか? ネコの五感についての文章で、ネコの耳は片耳ずつ別々に回転させることができて、「耳介(じかい)」が180度回るおかげで、最大1m離れたところから数センチの誤差で音の発生場所を特定できるとか、ネコのひげ「洞毛(どうもう)」がかすかな空気の振動を感知して獲物の存在をネコに教えるとかあるんです。そうした部位の名前などは調べないと分からないですが、楽しかったですね。 印象深いのは、「ネコがいつも足から着地できるわけ」というコラムです。ノースカロライナ大学のグレゴリー・J・グバー博士の著書『「ネコひねり問題」を超一流の科学者たちが全力で考えてみた』から考察しています。日本では、ダイヤモンド社から水谷淳さんの訳で出版されていますので、日本語版を読んで確認しながら訳しました。文字数に限りがあるなかで、一応、くるりんぱ! とネコが着地する様を、読んだみなさんが理解できるようになったかなという気はします。