特攻隊の思い繋ぐ 最初の出撃から80年 舞台「帰ってきた蛍」東京・俳優座で6月29日開幕
先の大戦末期、特攻隊員の最期の日々を温かく見守り「特攻の母」と呼ばれた「富屋食堂」の女将、鳥濱トメ(1902~92年)、その娘たちと隊員との交流を実話を基に描いた舞台「帰って来た蛍~永遠の言ノ葉~」が東京・俳優座で29日に開幕する。今年は特攻隊による最初の出撃が行われてから80周年。脚本・演出・製作総指揮を担う柿崎ゆうじ(55)が作品への思いを語った。 同舞台は平成20年の初演以来、再演を重ね、今回で8回目。トメや娘の美阿子、礼子のほか、宮川三郎少尉が主な登場人物だ。そのほか特攻隊員や彼らを親身に世話をした礼子ら知覧高等女学校3年生の「なでしこ隊」が登場する。 タイトルの「蛍」は、出撃前夜、20歳になったばかりの宮川少尉が「ホタルになって帰ってくる」とトメに別れを告げ、翌晩、隊員たちが集まる富屋食堂に実際、1匹のホタルが飛んできた実話にちなんでいる。 本作を作ろうと思ったのは「ホタル帰る 特攻隊員と母トメと娘礼子」(赤羽礼子ら共著、草思社)を読んだことがきっかけだ。「特攻隊員を温かく見送った女性たちがいたことを伝えたいと思った」 舞台化に当たり、さまざまな資料に触れ、特に心を打たれたのが、出撃を待つ特攻隊員たちの日々をつぶさに記したトメや娘たちの日記だった。そこには特攻隊員たちの心情がつづられていた。 「出撃前、女学生たちから『私たちの気持ちをご一緒させてください』と人形をもらった特攻隊員がそれを首に下げながら、『僕が敵艦に体当たりするときは、この人形を後ろにするからね。突っ込むときは痛いだろうから僕が盾になってあげるよ』と。そんな心根を持った青年たちの姿に、本当に感動した」 脚本・演出の上で一番心掛けたのが、「事実に対して忠実になること。誇張もせず、噓も描かない。当時の方々が舞台を見て『そのままだった』と言ってもらえる舞台にしたい」。 特攻隊員役の俳優はみな稽古前には必ず軍隊式の教練を受け、本番では丸刈りにしなければいけない。「『気をつけ、敬礼』にしても、当時は上官から殴られるという緊張感の中、上官を恐れるあまり、目を合わさないように極端に突っ張った形でしていた。そういった動きも、舞台上で自然にできるよう教練を行っている」 作品に込めた思いは何か。「特攻隊の方々が今もし生きていたら、われわれに何を伝えたいだろうか。『未来の日本人は、俺たちを忘れないでいてくれるだろうか』というのが一番のメッセージ。自分たちが誇りある国に生まれたんだということを、この作品を通して実感してほしい」