もういつ噴火が起こっても全然不思議ではない――研究の第一人者に聞く、「富士山リスク」への向き合い方 #災害に備える
―― 過去には30年に1回噴火していた火山が長い間噴火していない。ということは、それだけ噴火のエネルギーをため込んでいるという見方も可能でしょうか。 「アメリカのワシントンD.C.にあるスミソニアン自然史博物館というところが、世界中の火山が噴火の前にどれくらい休んでいるのかを調べています。火山噴火の規模を表す指標に、火山爆発指数(VEI)というものがあって、規模が小さいほうから0~8の9ランクに分けられているんですが、巨大噴火と呼ばれるものに入るVEI5以上の噴火は、その前にほとんどが100年以上休んでいる。場合によっては1000年以上休んでいた火山がVEI5以上の大きな噴火を起こしている。このことから、長く休むとたくさんマグマがたまるので、いざ噴火が起きると大きな噴火になりやすいということがわかります。もちろん必ず、というわけではないですが」 ―― もし噴火するとして、それは事前にわかるものでしょうか。 「富士山の噴火を事前に予知しようと考えたときに困るのは、マグマがどの程度溜まっているかがわからないことです。たとえば桜島は10キロぐらいの深さ、伊豆大島や三宅島もだいたい8~10キロぐらいの深さにマグマが溜まっている場所があるので、人工衛星で山の膨らみを測ることで変化がわかる。しかし、富士山は、20キロよりも深いところにマグマがあるので、それを測ることができない。10キロくらいの、本当に浅いところにマグマが上がってくるまでわからない」
富士山噴火は、想定しうるバリエーションが多すぎる
―― 多くの人が「富士山が噴火する前にわかる」と思っているかもしれないけれどそれは誤りで、不意打ちで噴火するということもあるということですね。 「そうですね。不意打ちの意味にもよりますが、何週間も前から分かるとは思えません。ただ、いつとははっきり言えないとしても、数時間から数日前には噴火しそうだということは分かるでしょう。過去の噴火については、たとえば地質調査で、ずいぶん調べ上げられていて、ほかの火山よりは非常によくわかっているんです。ですが、噴火そのものは経験したことがないので、噴火前にどのような現象が起こるか明確にはわからない。富士山が噴火すると、どういうことが起こり得るかということは、ある程度想像がつきます。ただ、バリエーションがあまりにも多いというのも富士山の特徴なんです」 ――今から2年前の2021年3月、藤井さんも関わった、富士山の噴火を想定したハザードマップの改訂版が公表された。このハザードマップの改訂版を作ることになったのはなぜでしょうか。 「一番の問題は、最初に作った2004年当時に考えていたより外側にも火口ができる可能性があるのがわかったことですね。山梨県富士吉田市の市街地に近接しているところにもかつて火口があったということが明らかになった。市街地に近いところでも火口ができる可能性があるとなると、これまでの計画といろんなことが変わってくる。もしそこから溶岩流が流れ出たら、あっという間に市街地に到達してしまうわけですから。基本的には山頂から13.5キロぐらいの範囲内は、火口ができてもおかしくないということが、詳細な調査によって明らかになってきた。それで、17年ぶりにハザードマップをもう一回徹底的に見直すことになりました」 ―― 富士山の火口の数ってどれくらいあるか、数は数えているのでしょうか? 「一応、そこは数えていますよ。5600年前までさかのぼって数えている。今すぐに思い出せないけど、少なくとも数百という数の火口があるのです。そして、富士山は『噴火のデパート』と言われます。それぐらい、いろんなタイプの噴火が起きる。ほとんど爆発せずに割れ目がそっとできて、マグマのしぶきを100メートルぐらい噴き上げるけど、爆発音も大してないまま、あとは溶岩流がタラタラタラと流れ続ける。このような噴火が、富士山では非常に多いのですが、一方で宝永噴火のような膨大な噴石や火山灰などを噴き上げる爆発的噴火もときどき起きています」