「香水」ばかりで嫌になることもあった――瑛人が乗り越えた「香水の呪縛」
「瑛人は一発屋!」と言うのは、エネルギーのむだ
変化は、ポジティブな気持ちをもたらすだけではなかった。ある種の戸惑いも運んできた。 「こうしたすごい状況を『面白いなあ』と思う一方、ときどき『なんかつまらないなあ』と思うこともあって。そういうとき、『ハッ!』とビックリして『あっぶねえ!』ってなる。だってスペシャルで、メッチャ嬉しい出来事が続いているわけですよ。それなのに、なぜだかわからないけれど、『もっと! もっと!!』とさらにたくさんを欲しがっちゃう。その感覚が本当に怖くて、俺」
マイペースに、気のおけない風通しのいい仲間と楽しい時間を過ごす……瑛人が生活する上で大切にしていることだ。その楽しい時間に怖さの感覚をもたらしたのは、ほかでもない「香水」であった。 「『香水』という曲で、たった一瞬でみんなの俺を見る目線が変わった。簡単に言うとお金のこととか。別に俺の周りがそういう目で見ていたわけではないんだけれど、勝手に気になって、落ち込んで考えてしまった時期もありました」
独り歩きした代表作は、純朴な音楽青年の悩みの種となった。彼のマインドを支えたのは、所属事務所と今のレコード会社であった。周囲が「第2の『香水』」を求めなかったことが心をやわらげた。 「『瑛人の人格のまま、歌を作ればいい』と言ってくれて。もう感謝しかない。おかげで『香水』が売れた今も、ちゃんと瑛人として歌えている。もし第2の『香水』を作れと言われても、どんどん自分の人格を切り離していくことになるから、だんだん地に足がつかなくなる。入った事務所やレーベルが違っていたら、俺は今も宙に浮いたままかもしれない。今周りにいる人たちがどんなに忙しくても大変なときでも、ちゃんと俺が俺のままでただ歌を作って普通に生きていける環境を作ってくれた」
呪縛となりかけていた「香水」のリリースから約3年。今は導いてくれた曲として感謝を示す。 「やっぱどこに行っても『香水』のイントロが鳴ると、みんな『イエーイ!』と盛り上がってくれる。これにはもう感謝ですよ。正直言うと、『香水』ばかり求められることに嫌になるときもあって、今日は『香水』を歌わなくていいかなって思うこともあったけど、実際にそれをやったら来てくれた人が残念がるだろうし。こんなに良い持ち物を持っているなら、それはちゃんと使わないと、って今は思います(笑)。それに、この一曲があったから今の俺がある。新しい人との出会いを作ってくれたのもそう、こうして取材してもらえるのも『香水』のおかげ。俺にとっちゃ作った曲の中のただの一つではあるけれど、『ありがとうね~!!』という思いはありますね」 “「香水」だけの人間”という心ないネットの言説も彼は意に介さない。瑛人は笑顔を浮かべこう答えた。 「俺に一言文句を吐くために、わざわざむだなエネルギー使わなくていいのになあって思う。だってさ、もしかしたら『瑛人は一発屋!』って言っている間に、その人にとっての大切な何かを失うかもしれない。そのほうがもったいないなと思う」