「ピンポイント」で日本初の月面着陸へ JAXAスリムが20日に挑戦
ちなみに2022年11月、JAXAの超小型無人機「オモテナシ」が月面を目指して米国から打ち上げられたものの、失敗している。ただし同機が目指したのは衝突ともいえる硬着陸の部類。一般に着陸の言葉が意味する、緩やかな「軟着陸」ではなかった。こうした中でスリムは、打ち上げるロケットも含め、日本の機体で軟着陸する“正真正銘の日本初の挑戦”といえる。
一方、中国は探査技術を急速に高めている。月面着陸は2013年に「嫦娥(じょうが)3号」で実現し、19年に4号が史上初めて月の裏側に降り立った。20年に5号で月の物質を地球に回収したのに続き、世界初となる月の裏側からの回収を目指す6号を、今年前半にも打ち上げる。
カメラと小型ロボットも活躍
スリムの主目的は着陸技術の実証だが、科学観測のための分光カメラも搭載している。着陸後に数日かけ、地下のマントルから月面にむき出しになった「かんらん石」の組成を分析する。かんらん石は、マグマが冷え固まった火成岩に含まれるもの。その組成を調べて地球のマントルのものと比較すれば、月の起源の理解につながる。地球に大きな天体が衝突し、はぎ取られた物質で月ができたとする、有力な「ジャイアントインパクト説」を検証できるという。
アポロなどで地球に持ち帰った試料には、スリムが対象とするかんらん石はないという。また上空からの観測では、かんらん石のある場所までは分かるものの、組成の分析まではできない。地下のかんらん石は、天体の衝突痕であるクレーター付近では月面に掘り起こされているとみられる。ピンポイント技術でこそ着陸できるクレーター付近で、初めてマントル由来のかんらん石の組成を調べ、科学のためのスリムの意義を実証する。
スリムは小型ロボットも載せている。着陸直前の高度2メートルから2体を分離し、スリムが着陸した姿の撮影や状況確認、通信などを目指す。このうち「レブ1」は飛び跳ねるなどして移動するタイプで、JAXAや中央大学、東京農工大学、和歌山大学などが開発。「レブ2」は球形で、着地後に卵が割れるように変形して2輪で走るもので、JAXAとタカラトミー、ソニーグループ、同志社大学が開発した。どちらも、動く姿を想像するだけで楽しい。