「ピンポイント」で日本初の月面着陸へ JAXAスリムが20日に挑戦
デジカメ「顔認識」と同じ原理、クレーター目印に進む
そして着陸作業。まず19日午後10時40分頃、高度15キロを航行するスリムが、飛行機の数倍という秒速1.8キロから減速し、降下を開始する。カメラで月面を撮り、周回機「かぐや」(2007~09年)の探査で得たクレーターの地図と照合して、機体の位置や高度をリアルタイムで把握。降下開始場所から800キロ離れた、着陸地点上空へと向かう。この「画像照合航法」の原理は、デジタルカメラの顔認識機能と同じで、顔ではなくクレーターを目印にするものだ。
日付が変わる20日午前零時頃、着陸地点上空の高度7キロにさしかかると、垂直に降下を開始。カメラの画像から岩などの障害物を検出して自ら回避するほか、レーダーによる高度や速度の精密計測も活用する。零時20分頃、月面の低緯度の平原「神酒(みき)の海」にある「シオリクレーター」付近の、半径100メートルの円内に着陸する。一連の着陸過程を坂井氏は「新千歳空港の上空を通過し、20分後に甲子園球場の中にピタッと降りることに挑戦する」と例えて説明する。
高速で移動しながら画像照合航法を実現するには、搭載したコンピューターが重要だ。頭脳であるCPU(中央演算処理装置)は、宇宙用だと地上用の100分の1ほどの性能しかないというが、スリムチームは1~2秒の高速で画像処理して位置を特定する仕組みなどを、独自に開発してきた。
着陸の制御は、相模原市にある管制室から指示を出すのではなく、機体が自律して進める。いったん着陸の降下を始めると中止はできず、管制室からは見守ることになる。20日未明にはひとまず着陸の成否が明らかになり、ピンポイント着陸の成否の判定には1カ月ほどかかる見込みだ。
あえて転倒させて「耐転倒性」確保!?
月の探査が進んで科学研究の狙いが高度化し、今後は探査機にとって安全な広い平原ばかりでなく、クレーター近くの傾斜地など、さまざまな地形の場所への着陸が求められていく。また月の極域のごく限られた場所に、将来の資源利用が期待される水の氷があるとの見方もあり、ピンポイント着陸が技術の鍵となるという。 着陸に関し、スリムの独自の足にも注目したい。米アポロ計画の着陸船のような4本足ではなく、短めの5本足が特徴。まず1本の「主脚」で月面に接地し、次に残り4本の足も使って、15度の傾斜地に、上り坂に向かってしがみつくように倒れ込む。スリムチームは「2段階着陸方式」と呼ぶ。