ChatGPTで詐欺メール生成、ヘロインの500倍強力な合成薬物…“闇ビジネス”の恐るべき手口
日本でも闇バイトに端を発する凶悪犯罪の報道が相次いでいるが、世界でもギャンググループの動きが活発化し、新たな形態の犯罪が誕生しているという。彼らは生成AIなどの新しいテクノロジーを使いこなし、国際的なネットワークを拡大して、犯罪組織の“帝国”を築いている。その巧みな手口を、英経済誌「エコノミスト」が国際刑事警察機構(インターポール)などの専門家に取材した。 【画像】ChatGPTで詐欺メール生成、ヘロインの500倍強力な合成薬物…“闇ビジネス”の恐るべき手口 かつて一世を風靡したグローバル化は崩壊しつつあり、貿易や投資の停滞によって、多くの国が不況に苦しんでいる。だが、こうした影響を受けていない人たちもいる。国際的な犯罪組織やギャンググループだ。 彼らは世界の至るところに闇のサプライチェーンを構築し、国際的な犯罪に手を染めるための人間を雇い入れ、チャンスを虎視眈々と狙いながら、国境を越えた取引をおこなっている。 国際刑事警察機構(インターポール、ICPO)で事務総長を10年間務めたユルゲン・ストックは、世界を股にかけた犯罪が隆盛を極める昨今の風潮をこう憂慮する。 「犯罪組織やギャングとの戦いに、世界は敗北しつつあります。過去に例のないほど、彼らの専門性は高まっており、その活動規模も拡大しています」 ストックの危機感は一見、的外れに思えるかもしれない。戦争状態にない多くの国・地域では、暴力は着実に減っている。2000~2021年の間、世界全体の殺人事件の犠牲者数は10万人当たり6.9人から5.8人へと減少した。犯罪への懸念が高まる米国でも、凶悪犯罪の発生率は1990年代初頭以降、半減している。 だが、スイスに本拠を持つNGO・国際組織犯罪対策グローバルイニシアチブのマーク・ショー事務局長は、2000年代から世界中で組織犯罪が急増していると指摘する。それには3つの要因がある。
ChatGPTで詐欺文書を生成
1つ目は、暗号化されたメッセージアプリや暗号資産(仮想通貨)、生成AIといった新しいテクノロジーの普及だ。 10年ほど前まで、警察や諜報機関は犯罪者同士のメールや通話のやりとりを傍受することができた。だが、いまでは多くのメッセージアプリやメールシステムに暗号機能が備わっており、犯罪組織はそうしたセキュリティの高い連絡手段を利用して秘密裏に謀略を練ることができる。 また、暗号資産が違法薬物や身代金の支払いに使われるようになり、地下経済の追跡が困難になった。サイバー犯罪の台頭も法執行機関の悩みの種だ。 ICPOでサイバー犯罪対策部門の責任者を務めるイーボ・デ・カルバーリョ・ペイシーニョは、技術が進歩するたびにあらたな脅威が生まれていると指摘する。最近は詐欺メールの作成に、ChatGPTが使用されているという。 ブロックチェーン分析企業チェイナリシスによれば、2023年に詐欺、窃盗、ランサムウェア攻撃によって得られた不正な利益は推定76億ドル(約1兆7000億円)に達した。 コロナ禍で多くの人がオンライン世界へ退避すると、犯罪者はそこに“新たな市場”を見出した。ところがユーザーの多くは、ネットのリスクについて無知だった。国連薬物犯罪事務所(UNODC)で東南アジア・太平洋地域代表を務めたジェレミー・ダグラスは、「東南アジアの状況は新型コロナで一変した」と話す。 コロナ前まで、「黄金の三角地帯(タイ、ミャンマー、ラオスの3ヵ国がメコン川で接する山岳地帯)」は、違法薬物やギャンブルといった地下経済の中心地だった。だがコロナ禍でマフィアが経営するカジノから客が消えると、犯罪組織はビジネスの主軸をオンラインへと急速に移行する。彼らはオンラインカジノのサイトを、ユーザーからカネを巻き上げる賭博場としてだけでなく、資金洗浄の場としても利用している。 2つ目にあげられるのが、安価で強力な合成薬物の登場だ。
Economist