銅高騰、狙われる太陽光発電所 人目につかずケーブル盗、法の未整備つき容易に売買 保険業界も困惑…発生保険金100倍超の会社も
銅の価格高騰に伴い、太陽光発電所の送電用ケーブル盗難が急増している。鹿児島県内では大隅半島で被害が多発し逮捕者も相次ぐ。人目につきにくい場所にある施設が多く屋外のため狙われやすい。被覆のない銅線類は買い取り時の本人確認が法的に義務付けられておらず、法整備を求める声も上がる。 【写真】〈関連〉霧島市の太陽光発電事業所が盗難対策で銅線ケーブルの代わりに使っているアルミケーブル
肝付署などは8月上旬、窃盗などの疑いで電気工事業の男(34)を逮捕=同23日付で起訴=した。起訴状などによると、有刺鉄線や金網フェンスを切断して志布志市の発電所に侵入。銅線ケーブル約20メートル(時価約20万円)をニッパーで切り、車で運び出したとされる。銅線は売却されていた。 9月中旬にも、少年2人が曽於市の施設で銅線ケーブル数十本など(時価約134万円)を盗んだ疑いで逮捕された。同施設は複数回被害に遭っており、曽於署が関連を調べている。 肝付署によると、大隅半島の各署が1月から9月10日の間に26件の被害を認知。外内武治次長は「昼夜問わず交通量や人家の少ない所で広範囲に発生し、捜査員の確保や張り込みに苦労した。被害や不審な人物に気付いたら情報提供を」と呼びかける。 太陽光発電協会(東京都)によると、銅価格が急騰した2021年ごろから北関東や名古屋市で被害が増えた。犯行は組織的で計画的だ。地図アプリで立地を確認し防犯設備や搬出経路を下見した上で夜間に実行するケースが目立つ。杉本完蔵シニアアドバイザーは「新規参入に二の足を踏んでしまうのでは」と再生エネルギー普及に水を差しかねない現状を憂う。同協会はケーブルが地上に露出しない地下埋設配管の導入や、草を刈り死角をなくすなど対策を紹介している。
事業者も対策に力を注ぐ。「ヨコハマホールディングス」(横浜市)の松田貴道社長(51)は「銅より2~3倍安価なアルミケーブルへの移行やアルミと知らせる看板の設置が有効」と話す。ただ、対策を施しても被害に遭ういたちごっこが続く。今年8月、鹿児島県内の設置工事中の発電所で取り付け前の銅線が盗まれた。「復旧まで数カ月間、発電収益はゼロ。損失は大きい」と訴える。 新型コロナウイルス禍での供給滞りや世界的な需要の高まりで、銅の価格はコロナ前の約2倍に高騰。経済動向に詳しい「七十七リサーチ&コンサルティング」(宮城県)の田口庸友さん(49)は「熱伝導率や導電率の高い銅は脱炭素化に欠かせず、中長期的に見ればさらに価格が上がる可能性がある」とみる。その上で「盗難対策だけではなく、買い取る側が売り手の身分証を確認する全国一律の規制など出口対策も重要だ」と指摘した。 ◇ 太陽光発電施設の送電用銅線ケーブル盗難急増を受け、盗難による発生保険金額が跳ね上がっている。各社は保険料値上げなど見直しを余儀なくされている。
ある大手保険会社のケーブル盗難に対する発生保険金は2018年度から23年度で約20倍に急増。同期間で100倍以上増えた社もあるという。ある社の担当者は「盗難急増に自然災害が重なり、支払額は増える一方。従来通りの補償が難しくなっている」と明かす。 大手4社に取材したところ、全社が「内容を見直した」と回答した。具体的には保険料値上げや盗難を保険の対象としない不担保化、補償期間短縮など。保険契約に盗難対策実施状況を反映する社もあった。
南日本新聞 | 鹿児島