ヴィッセル初優勝を支えた謙虚なヒーロー・山川哲史が貫いたクラブ愛。盟友・三笘のドリブルパートナーからJ1屈指の守備者へ
聖域なき競争の中でレギュラーの座を射止めた「危機感」
筑波大から加入して4年目の今シーズン。出場試合数は「25」と、2021シーズンの「29」や昨シーズンの「28」に及ばないものの、合計のプレー時間は「2153分」とすでに自己最長をマークしている。 ピッチに立てなかった8試合は、すべて右足第5中足骨骨折による戦線離脱が原因だった。一方で途中出場は77分から投入され、約3カ月ぶりに復帰を果たした8月19日の柏レイソル戦だけ。70分で負傷退場した5月27日のFC東京戦を含めて、出場したすべての試合でセンターバックを担っている。 「長い目で見ていないというか、本当に目の前の試合でいかに守るか、みたいなところしかフォーカスしていなかったので、その積み重ねで今日まで来た、という感じですね。本当に目の前の試合だけを見た方が、僕には合っているのかなと思っています」 昨シーズンまではピッチに立っても、右サイドバックでの起用がほとんどを占めていた。今シーズンは一転して開幕から主戦場としてきたセンターバックで、身長186cm体重79kgの恵まれたサイズを駆使して空中戦を制し、足もとの確かな技術でビルドアップの起点にもなっている。 センターバックのファーストチョイスと見られていた菊池流帆、昨夏にブラジルのフラメンゴから期限付き移籍で加入し、今シーズンから完全移籍となったマテウス・トゥーレルがケガで出遅れた影響もある。特に菊池は開幕直後の2試合に出場しただけで、今シーズンを終えようとしている。 しかし、最終ラインにケガ人が相次いだ状況だけが、山川がセンターバックとして一本立ちした理由ではない。山川が残した言葉には、今シーズンの神戸が躍進した理由が凝縮されている。 「日々の練習から競争は始まっていますし、今シーズンは特に練習でいいプレーをした選手が試合に出る状況がたくさんありました。だからこそ練習の段階から全力でプレーして、まずは先発の座を勝ち取る。試合でもいいプレーをしないと代えられてしまうので、すぐに自分のポジションがなくなってしまうという、いい意味での危機感を持ってきたのが、自分のなかではよかったと思っています」 吉田孝行監督のもと、夏場までは下位に低迷しながら昨シーズンのJ1残留を勝ち取る原動力になったハイプレス、ハイインテンシティーをより先鋭化させて臨んだ今シーズン。指揮官はたくましく走れて、球際の攻防に強くて、がむしゃらに頑張れる選手を重用し続けた。 神戸のキャプテンで元スペイン代表のレジェンド、司令塔アンドレス・イニエスタにも聖域は用意しない。開幕から好調をキープする神戸で居場所を失い、夏場に退団する事態を迎えても、吉田監督は覚悟を決めて最適解だと信じた戦い方を貫いた。そして、起用方針に合致し続けた一人が山川だった。 例えば紅白戦などでも、先発組とリザーブ組とにはっきりと分けて行われるケースが多いという。当然ながらポジションを死守したい側と、奪い取りたい側の間で激しい火花が散らされる。山川が言う。 「そういった日々の競争が、こういう結果(優勝)の一助になっているんじゃないかなと思います」