ヴィッセル初優勝を支えた謙虚なヒーロー・山川哲史が貫いたクラブ愛。盟友・三笘のドリブルパートナーからJ1屈指の守備者へ
貫いたクラブ愛、成長を後押ししたベテラン選手たちの助言
兵庫県尼崎市で生まれ育った山川は、中学生年代から神戸の下部組織に所属。公式戦出場こそなかったものの、ヴィッセル神戸U-18の最終学年だった15年にはトップチームに2種登録されている。 「間違いなく、と言っていいかどうかはわからないですけど……」 山川はこんな断りを入れた上で、自分のなかで脈打つ神戸への愛をはばからずに語る。 「個人的にはヴィッセル神戸のなかで、クラブへの思いが一番強い選手かなと思っています。中学生からヴィッセル神戸に入って、昨シーズンも本当に苦しくて、そういったことが重なったなかでの優勝だったので、優勝が決まった瞬間はすごく……もう本当に感無量でした」 今シーズンの神戸には山川に加えて、坪井、DF尾崎優成、MF中坂勇哉、MF安達秀都、そしてMF佐々木大樹とアカデミー出身選手が所属している。イニエスタや大迫らに象徴される大型補強が注目されてきた神戸だが、アカデミー出身選手の台頭はクラブとして長い時間と先行投資を惜しまず、実直に前進してきた証となる。そのなかでU-18から18シーズンに昇格した24歳の佐々木は大迫、武藤に次ぐチーム3位の7ゴールをマークして優勝に貢献した一人になった。 インサイドハーフや左右のウイングで起用されてきた佐々木は、昨シーズンまでの合計ゴール数がわずか2だった。大きな飛躍を遂げた背景には、大迫からの助言があったと佐々木本人が明かす。 「練習で最後の部分が合わなかったりすると『そこだよ、そこだよ、お前』と常に言ってくれる。おかげで最後のバイタルエリアのところは強く意識できるようになってきましたし、実際に試合でゴールしたときも『続けろ』とか『それで終わるな』と言ってくれる。本当に感謝しています」 山川も大迫や武藤からアドバイスを受けている。例えば敵味方として対峙した練習で、大迫や武藤を狙ったロングボールを処理したときに、ヘディングで競り勝った山川へこんな言葉が飛んできたという。 「その場面でセンターバックがマイボールにできれば、チームとしてすごく大きいよ」 名古屋戦ではユンカーをターゲットにしたロングボールをヘディングではね返すのではなく、ポジションをしっかり取りながら胸トラップでカット。マイボールにした場面があった。山川が感謝する。 「今日がどうこうというより、1年間のなかで成長できた部分なのかなと思っています」 大迫や武藤だけではない。山口や酒井を含めて、今シーズンの神戸ではヨーロッパでプレーした元日本代表のベテラン選手たちが、濃密な経験を惜しみなく還元。若手や中堅の成長を後押ししていた。