復帰を決めた真央の前に立ち塞がる壁
「現在、プログラムに3回転、3回転を入れることが常識になりつつあります。また、元々、ジャンプに入る前の構えが大きかったのですが、ロシア勢は、ほとんど、そういう無駄な動きがなく流れるようにジャンプを跳びます。浅田選手は、ルッツジャンプについても課題がありました。今後、トリプルアクセルを跳べる選手はさらに増えるでしょう。同時にジャッジもジャンプの踏み切りや回転を厳格に採点するようになっています。 そういう世界のジャンプ技術の進化に、どこまで対応できるか。また年齢的な体力の問題もあります。25歳を超えると回復力が、がくっと落ちます。そうなると練習量に影響が出ます。これまで、できていた練習量をこなせなくなるのです。会見で浅田選手が語っていた『この先に何がおきるかわからない』というものは、そういう年齢的な体力の問題からくる不安であったり、故障の発生でしょう。復帰の過程で厳しい現実を見せつけられる可能性もありますが、日本の若いスケーターたちにも『真央ちゃんと一緒に戦える』というモチベーションを植えつけることになり日本の女子フィギュア界は間違いなく活気づくと思います」 トリプルアクセルの成功率を高めることに加えて、難易度の高い3回転―3回転をプログラムに入れなければ勝負にならない。また技術的に問題の多かったルッツジャンプの上達も課題。回転不足の判定などに悩むと村上佳菜子のように不振に陥る危険性もある。「ステップ、スピンなどの表現力では群を抜いている」と中庭氏は言うが、それだけでは世界で頂点を狙う勝負にはならない。浅田が言う「大人の滑り」だけでは、ジャンプが進化した近代フィギュアの世界では限界があるのである。 注目の復帰戦に関しての明言は避けたが、今秋からのグランプリシリーズ出場を目指すならば、遅くとも、この4、5月には、プログラムを作っておかねばならないため、時間的には間に合わないだろう。7月のアイスショーで「ショートプログラムを行うかもしれない」と、浅田は語っていたが、どこまでの準備ができているのか。 またGPシリーズには、特別枠を使わずにランキングでのエントリーが可能なようだが、正当な理由がなく欠場した場合には、ペナルティなどが科せられるため「とりあえずエントリー」ということは許されない。「去年の世界選手権前までのレベルまでに最低もって行かねば、試合には出れない」と考えていることからすれば、早くとも、復帰戦は、来春の世界選手権の前に海外でいくつかある試合までずれこむかもしれない。ジャンプレベルの進化に対応できず、大会復帰を断念してしまう可能性も捨てきれない。 「目標を達成するには、自分の強い気持ちがなければ達成できません。自分が決めたことなので、責任をもってやっていきたい。不安? いろんな思いはありますが、今は自分に期待しながら練習をしています」 浅田は、そう力強い言葉で会見を結んだ。イバラの道が待ち受けているからこそ、自分にいい聞かせるような愚直な決意だったのかもしれない。