「教員不足」解消のための緊急方策は、教育に何をもたらすか
高野 和子(明治大学 文学部 教授) 小・中・高等学校などの教員不足が大きな社会問題となっています。大学生を公立小中学校の非常勤講師として任用する自治体も現れました。また文部科学省は、教員免許を持たない社会人を対象とする「特別免許状」制度活用を促しています。表面上の教員数を増やすこと自体が難しい状況ですが、それらが長期的にはさらなる問題をもたらす可能性があります。
◇教員の長時間過重労働を「働き方改革」で是正できるのか? 私は主に教員の養成・採用・研修に関わる政策や制度を、とくに日本とイングランドを比較しながら研究しています。 イングランドは、1970年代の一時期を例外として、戦後一貫して教員不足に悩まされてきましたが、それとの対比で見れば、日本では最近になるまで教員不足が顕在化しなかったと言えます。しかし、教育現場からは長年、長時間過重労働の問題が訴えられていました。 そもそも教員不足の解決のためには、第一に教員の長時間過重労働を是正し、「先生になりたい」と思ってもらう必要があります。公立学校の教職員定数は法律と条例にもとづき学級数に応じて決められますが、教員の業務量の増減とは結びつけられていません。 「脱ゆとり教育」の方針によって、子どもたちが使う教科書のページ数が増えたことはご存知かと思います。実際、学習指導要領が変わって教わる内容・種類や授業時間数は増えましたが、それは教職員定数には反映されません。そのため、教える内容・時間数が増えた分は一人当たりの負担(担当授業時間数)を増やして対応せざるを得ません。 また、各教科の年間授業時間数は学習指導要領で規定されている一方で、先生方一人ひとりが授業を何時間受け持つかには決まりがありません。研究者からは、長時間過重労働解消のためには、この一人当たりの担当授業時間数(持ちコマ数)に上限を設けるべき、その持ちコマ数を基準に教員を増員すべき、という問題提起がされています。 個人的には、長時間過重労働の是正には、もはや「働き方改革」では対応が困難な段階ではないかと考えます。そして、いま、教員不足解消のために導入されてきている緊急の方策の数々が、長期的に何をもたらすのかを見落としてはならないと思っています。