「教員不足」解消のための緊急方策は、教育に何をもたらすか
◇長らく国は教員免許状の取得者・所持者数に抑制的であった 教員不足の問題に対し、文科省は2010年代後半になってようやく本格的な実態把握を始めましたが、教員養成に関する国の政策を長いスパンで見ると、実は、長らく教員免許状の取得者・所持者数を抑制する方向で推移してきました。 今日の教員不足を議論する前提として見落としてはならないこととして、1980年代半ば以降、財政構造改革の一環として国立教員養成系大学・学部の定員削減が進められたことがあります。1986年度に20,100人であった入学定員が、2000年度には9,770人にまで減らされたのです。また、2009年から教員免許更新制が実施されて教員免許に10年の期限が付されたことも、教員免許取得者・所持者の数を減少させることになりました。この免許更新制は、教員不足が顕在化する中で、2022年7月に廃止されました。 歴史的にふり返ると、戦後日本の教員養成制度では「大学における教員養成」が二大原則の一つだとされてきました。しかし、とくに1980年代以来の教員免許制度改革では、この「大学における教員養成」を空洞化しようとする策が繰り返されてきました。 大学では、教育職員免許法に沿って教職課程のカリキュラムが組まれ、学生が単位を取って免許を取得していくわけですが、 “免許取得に必要な単位数”に注目して戦後から現在までをみると、1988年、1998年の法改正で時期を画すことができます。 なかでも大きいのが88年改正です。それまで教員免許には甲乙という区分がありました。たとえば社会科や理科といった広い領域が甲で、国語・数学・外国語といったものが乙になります。 88年改正ではこの甲乙の区分がなくなり、一級から一種という言い方になりました。そして必要単位数が59単位に増えたのに伴い、社会など旧甲科目では「教職」に関しては5単位、国語など旧乙の場合は「教職」に関しては5単位、「教科」に関しては8単位増えました。つまり、最大で13単位も増加したのです。 また、98年改正では、大学による特色を出すということで「教科又は教職」という区分で8単位が新設されました。そして、「教科」に関する科目の必要単位数が20単位減らされ、「教職」に関する科目が12単位増えました。子どもに関わる困難が噴出してきた1980年代末に、それに対応できる教員を養成するということで「教職」科目が増やされたわけです。59単位という総枠のところが変わらないので負担感は変わらないように見えますが、一般大学(本学のように、教員免許取得が卒業要件にはなっていない大学・学部)の学生にとっては、「教科」に関する科目は学部の専門科目をとれば取得できるけれど、「教職」は卒業要件単位に加えて履修するので、結果として教員免許を取得するハードルが実質的に上がりました。 このように大学での養成基準を引き上げた88年の教育職員免許法は、同時に一方で、養成課程を経ないで免許を取得できる特別免許状という制度を創設しました。特別免許状とは、「(担当する)教科に関する専門的な知識経験又は技能」等を有する社会人経験者に、都道府県教育委員会が教育職員検定を行って授与する免許状です。 特別免許状の制度が始まった当初は、有効期限つきであり、教えることができる科目や地域(県内のみ)も限られていましたが、その後は法改正を重ねるなかでどんどん条件が緩和されていきました。とくに私が驚いたのは、2002年教育職員免許法改正で学士号取得、つまり大学卒業という要件がなくされたことです。 大学での教員免許取得のハードルを上げる一方で、「大学における教員養成」を経ず大学を卒業せずとも教員となれるルートが開かれるという「規制緩和」がなされてきたわけです。