都心タクシー「プチバブル」早くも終焉の業界事情 稼げる状況に転職者が一時殺到も事業者側が苦境に
「今は1人当たりの採用単価が200万円ほどになっている。これはコロナ前に比べると10倍近い金額。それでも運送業やバスから転職が相次いだのは、単純にタクシーが稼げるタイミングだったからです。今は資金力がない会社が採用戦線で戦うのは厳しくなってきており、中小は稼働台数を増やせないという悪循環にも陥っている」 また、直近3年間で毎年100人前後と、新卒採用を積極的に行う国際自動車の決算報告会ではこんな話も聞かれた。
「新卒採用も苦しい時期を迎えています。タクシー不足が叫ばれて以降、先行投資感覚で各社がお金をかけるようになり、年々採用のハードルは高まっているのが現状です」 燃料費の高騰、高額な採用フィーの支払いは、確実に経営を圧迫している。そして、車両が回復傾向にあるということは、ドライバー1人当たりの収入は低下しているという見方もできるのだ。となれば、せっかく集まってきた人材を留めておくことも困難になってくる。
仮に値上げが実施された場合、客単価は上がり、営業の効率化にもつながる。つまり、値上げによりドライバーの給料を確保できなければ、離職者が増えることを懸念しているともとれるといえる。 ■値上げが業者の増収につながった ざっくりとした計算にはなるが、値上げした各地域の増収率は10%から14%程度で推移している。タクシー事業者から値上げを求める意見が多かったのは、そういった影響もある。 一方で、必ずしもタクシー運賃の値上げに賛成という意見ばかりではない。2022年の運賃改定では懸念されていた「タクシー離れ」は都内で表面化しなかったが、短期間の再度の賃上げによりタクシーから離れる層が出てくる可能性は大いにある。
事実、既に値上げを実施した地域からは「値上げによりタクシー利用者は減りました。もともと高齢化していた利用者層は、より顕著になっています」という声も聞こえてくる。 大雑把にいうなら東京や大阪のような都心部の稼働率が高い会社ほど、値上げには慎重というスタンスが目立ち、「うまく循環しつつあるのに値上げにはリスクがある」という意見がある。逆に、地方の稼働率が低い会社ほど賃上げに前向きという言い方をしてもいいかもしれない。