盗塁され放題…“走らぬ大砲”に決められる失態 隙だらけの左腕「握りが見える」
磨いたクイック…どんどん小さくなったテークバーク
次の日に試しでその握りで投げて見た。「そしたら、ある程度落ちたんでね。これなら自分の理想にも近いかなと思って、これで行くことにしました」。星野氏の大きな武器となるフォークボールはプロ3年目のオフに、こうして誕生した。120キロ台のストレートと90キロ台のカーブに第3の球種として110キロ台のフォークが加わったわけだ。これも星野氏がプロで進化した一例だが、この頃にまだできていなかったのがクイックだ。 「よく走られましたからね。(南海の)門田(博光)さんには二盗を決められたし、(ロッテの)落合(博満)さんには三盗されました。一番駄目だったのが、足を上げて一塁に牽制した時に、そのまま走られてセーフになったこと。それでコーチに呼ばれてクイックをやろうって言われたんですけどね」と星野氏は苦笑する。遅いストレートとスローカーブを武器とする以上、クリアしなければいけない問題も多かったようだ。 投球フォームも変化していった。「カーブの時に握りが見えると言われたのでね」。テークバックはどんどん小さくなっていた。「一気に(腕の位置が)そうなったのではなく、自然と徐々に徐々に上がっていったんですけどね。クイックも練習するようになって、自分の中で、テークバックを大きくとると、もう間に合わないというのがわかるんで、だから早くトップに持っていかなきゃということで、徐々にそうなっていったと思う」。 フォークボールについても「癖がいっぱい出た」と明かす。「真っすぐの時はグラブが動かないけど、フォークの時は動くとか、いろいろね。直しても、直しても癖が出た感じでした。一度フォークで握っといて真っ直ぐに変えるのもやりました。面倒くさいけど、そういうのがうまくいかない時は打たれていましたね」。星野氏は4年目の1987年から11年連続2桁勝利をマークする。それは試行錯誤の上のいろんな“進化”があってのことだった。
山口真司 / Shinji Yamaguchi